その瞬間、真っ赤に染まったスタンドが大きく揺れた。
3-2。タイムアップ寸前の後半アディショナルタイムに値千金の決勝ゴールが生まれる劇的な幕切れ。その主人公となった長谷部誠の姿を見て、試合のメンバー外だった平川忠亮は呆気に取られたという。
「もう、素直に思いましたね。あぁ、上のステージに行っちゃったなと」
2004年8月29日、J1セカンドステージ第3節。浦和レッズが埼玉スタジアムにジュビロ磐田を迎えた一戦で、若き日の長谷部が演じた「伝説のゴール」である。
当時の磐田と言えば、名波浩をはじめ、藤田俊哉、服部年宏、福西崇史、田中誠、鈴木秀人などジュビロ黄金時代を支えてきた歴戦の勇士がずらり。さらに、重鎮の中山雅史もベンチに控えていた。
だが、数々の修羅場をくぐってきた海千山千の猛者たちが、縦に仕掛けた長谷部に次々と手玉に取られていく。センターサークル近辺で名波が振り切られると、次に田中が、最後は鈴木が置き去りにされた。
「あの磐田の選手たちが止めたくても止められない。最後はボールを浮かせる技ありシュート。それも体勢を崩しながら、利き足とは逆の左足でアウト回転をかけたところまでを含め、すべてが完璧でしたね」
しかも、ほとんどの選手の体力が尽きかけた後半アディショナルタイムにやってのけたのだから、普通ではない。
「たぶん、余裕をもってプレーしていたと思います。最後まで戦い抜くための体力を残しながら……」
テクニックやフィジカルに加えて、したたかに戦況を見極める“サッカーIQ”という点でも、すでにワンランク上のレベルにある――。衝撃のゴールは、それを改めて思い知る機会となった。
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