記事を
ブックマークする
「うわっ、白玉が埋まっている!」テノール歌手・中鉢聡が語る羽生結弦の音楽性…「恐ろしい音楽家になっていた」可能性も指摘
柔らかさ、切なさ、優しさ、そして圧倒的な美しさ……。羽生結弦選手の『Notte Stellata』の演技を初めて見た時、僕の胸には優美な感情表現が伝わってきました。
この曲は、伝説的なバレリーナ、アンナ・パブロワの代表作でもある『瀕死の白鳥』の印象が強いのですが、原曲であるサン=サーンス『動物の謝肉祭』の中の「白鳥」の曲が持つ色は、決して「瀕死」を表現したものではありません。音が斜め上に上がっていく「上行音型」の旋律がとても印象的で、白鳥が大空へ舞い上がっていくような優雅さがある。
加えて、「IL VOLO」が歌う詞は、夕べに恋人に向かって愛を歌う「セレナード(夜曲)」で、ロマンチックな色合いを重ねています。羽生選手も、衣装や振付といった意味ではバレエの『瀕死の白鳥』にインスピレーションを受けながらも、「死」の絶望ではなく、そこに優雅な美しさや「愛」を表現しているように僕には感じられました。
ゆったり流れる曲をダイナミックに見せる動きに驚き。
何より驚いたのは、ゆったりと流れる曲のテンポをダイナミックに魅せる彼の動きです。僕ら音楽家はよく「白玉(しろたま)を埋める」という言葉を使います。白玉、つまり全音符や二分音符など、伸びている音をどう表現するかはとても難しいんです。平坦に伸ばして演奏すれば、音楽は止まってしまう。チェロならばビブラートを入れたり、歌で言えば息を回したり、流すようにして、抑揚をつけて表現します。
彼の演技を見た時は思わず、「うわっ、白玉が埋まっている!」と唸りました。派手なジャンプやスピンで見せるプログラムではないのに、ゆったり流れる音の間も、長い手足を大きく使って感情を表現し続けている。それが僕が想像していたよりスピード感があって、なおかつ優雅なんですね。これは凄いことをやっている人だと驚嘆しました。
「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています