三原舞依には、心が折れそうになった時に見つめる写真がある。'21年12月、前回果たせなかった五輪出場のチャンスに懸けた全日本選手権。4位となり、夢破れた。
「正直、全日本選手権の後はどん底でした。『練習では出来てるのに、なんで本番はミスしちゃうんだろう』って、自分を責めて。誰にも話して来なかったけど、もう立ち直れないって。四大陸選手権の前は、お友達やファンの方のお手紙や言葉だけが心の支えで、生きてました」
その四大陸選手権で、励ましを支えに滑り抜き優勝。改めて、全日本選手権の写真を見て、自分と向き合った。
「本当に悔しかったので、まだまだアスリートとしてその気持ちは一生忘れてはいけないと思ったんです。考えれば考えるほど悔しい。でも悔しさを感じることができるのも、スケートを続けているからこそ。そう思うようにしたんです」
心が固まると、すぐに'22-'23シーズンのプログラムに着手した。新しい作戦は、これまで毎シーズン1曲の振付を依頼してきたデイビッド・ウィルソンに、ショートもフリーも依頼することだった。
ウィルソンの振付は、プログラムの流れを大切にする。派手で奇抜なポーズはなく、美しく、可憐で、なめらか。そのコンセプトは三原の人間性とマッチし、個性を引き出してきた。ウィルソンは振り返る。
「舞依との旅をスタートしたのは、彼女がジュニアの頃。とにかくキュートで、滑ることそのものを、スケートを始めたばかりの子供のように喜んでいる無邪気さが魅力的でした。平昌五輪シーズンの『ガブリエルのオーボエ』は舞依の美しさを磨き、失意で迎えた翌シーズンは、舞依をチアアップする気持ちで『It's Magic』を選びました。舞依の甘さと無邪気さが、古いジャズの質感にピッタリ。見事に、その歌に生命を吹き込んでくれました」
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