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《廃競馬場巡礼記》「サラブレッドが来ると曲がり切れない」地方競馬の“栄華”と“衰退”に思いを馳せる〜幻のカーブを求めて〜

2023/10/30
根岸森林公園(旧根岸競馬場)内に現存する旧一等馬見所は、YMOの映画「YMO PROPAGANDA」のロケ地として使用されたことでも知られる
近代競馬が伝来して150年以上。全国に作られた楕円形の走路の多くは役目を終えて歴史の中に埋もれていった。かつて熱狂の中心地だったその場所の微かな痕跡を辿って日本中を歩いた筆者が、旅先で出会ったものとは。

 鉄道に「廃線跡」があるように、競馬にも「競馬場跡」がある。ただ、廃線跡がトンネルや橋脚などの遺構が残りやすいのに対し、競馬場は平地に作られることが多いため、跡形もなくなっている場所のほうが多い。また、鉄道ファンには「廃線跡巡り」というジャンルが一定の愛好者を集めているのだが、廃競馬場は競馬ファンの間でも認知度が低いのが実情だ。

 しかしながら廃競馬場には、かつてあった活気を想像させる独特の魅力がある。私は全国の廃競馬場を巡り歩いて単行本を出し、さらに競馬専門の衛星放送「グリーンチャンネル」にて「競馬ワンダラー」という、廃止された競馬場、そして現役の競馬関連施設などを巡る旅番組のナビゲーターをしている。その起点になったのは1992年に訪問した和歌山県の紀三井寺競馬場跡地だった。

 1988(昭和63)年に廃止された紀三井寺競馬場は、全体が「和歌山県立医科大学附属病院」として再生された。

 1992年、今はなき南海電鉄和歌山港線に乗りに和歌山に来ていた私は、終点である水軒駅まで電車に乗り、そこからJRの紀三井寺駅まで歩いていた。その途中にあったのが紀三井寺競馬場跡。国道沿いに設置された工事中を示すシートの近くにあった工事概要の看板を見て、競馬を覚えたてだった私は初めて、日本には廃止された競馬場があることを知った。シートの隙間からなかを覗くと、見えたのは草も生えていないまったいらな黒い土地。その荒涼とした景色は、いろいろなことを想像させるのに十分なものだった。

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photograph by Hirofumi Kamaya

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