有馬記念というのは、当初からそこを目標にする陣営は少なく、天皇賞・秋、ジャパンCなどを戦った馬のうち、余力のある馬が出てくる。前哨戦を含めた連戦をこなすタフさが求められ、力のいる馬場が舞台となる消耗戦だ――と、かつて筆者に言ったのは、2007年に管理馬マツリダゴッホで有馬記念を制した国枝栄だった。
その論理に「牝馬」を当てはめると、1971年のトウメイのあと36年も牝馬が有馬記念を勝てなかったのも納得できる。競走能力の比較だけなら牡馬に劣っていなくても、繊細で、消長が激しい牝馬にとって、グランプリは過酷すぎるのだ。
そうした不利な条件をはねのけ、トウメイ以来となる牝馬の有馬記念優勝馬となったのは、ダイワスカーレットである。
快挙の前年の2007年、ライバルのウオッカを2着に下して桜花賞を制したスカーレットは、秋華賞とエリザベス女王杯も優勝。有馬記念に駒を進めた。女王杯から中5週と十分な間隔はあったものの、秋はローズS(1着)から4戦目。疲労の蓄積などを含め、状態はどうだったのか。
この馬の主戦騎手として、12戦すべてで手綱をとった安藤勝己はこう振り返る。
「状態はよかったです。疲れなども大丈夫でした。ただ、あの時点では正直、距離に自信が持てなかったんです。2000mくらいまではこなすけど、もっと短いほうがいいだろうと。2200mの女王杯を勝っていましたけど、牝馬同士でしたからね」
スカーレットは5番人気。好スタートを切り、外から来た馬を先に行かせて道中は2番手につけた。4コーナーで先頭に並びかけたが、内からマツリダゴッホにかわされ、2着に惜敗。3着は半兄のダイワメジャーだった。安藤はこうつづける。
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