#1083
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「こっちを向いてね、ヒヒンって鳴いた」ダイワスカーレットが“自分”に打ち勝ったラストラン<有馬記念37年ぶりの牝馬制覇>

2023/10/28
伝説の名牝トウメイが制した1971年を最後に、遠ざかっていた牝馬の戴冠。新しい時代の幕を開けたのは天皇賞・秋でライバルに惜敗した女帝だった。自らの力を証明するかのように先頭を譲らなかった彼女が最後に見せた、どこまでもしなやかな伸びに、他馬は沈黙せざるを得なかった――。

 有馬記念というのは、当初からそこを目標にする陣営は少なく、天皇賞・秋、ジャパンCなどを戦った馬のうち、余力のある馬が出てくる。前哨戦を含めた連戦をこなすタフさが求められ、力のいる馬場が舞台となる消耗戦だ――と、かつて筆者に言ったのは、2007年に管理馬マツリダゴッホで有馬記念を制した国枝栄だった。

 その論理に「牝馬」を当てはめると、1971年のトウメイのあと36年も牝馬が有馬記念を勝てなかったのも納得できる。競走能力の比較だけなら牡馬に劣っていなくても、繊細で、消長が激しい牝馬にとって、グランプリは過酷すぎるのだ。

 そうした不利な条件をはねのけ、トウメイ以来となる牝馬の有馬記念優勝馬となったのは、ダイワスカーレットである。

 快挙の前年の2007年、ライバルのウオッカを2着に下して桜花賞を制したスカーレットは、秋華賞とエリザベス女王杯も優勝。有馬記念に駒を進めた。女王杯から中5週と十分な間隔はあったものの、秋はローズS(1着)から4戦目。疲労の蓄積などを含め、状態はどうだったのか。

 この馬の主戦騎手として、12戦すべてで手綱をとった安藤勝己はこう振り返る。

「状態はよかったです。疲れなども大丈夫でした。ただ、あの時点では正直、距離に自信が持てなかったんです。2000mくらいまではこなすけど、もっと短いほうがいいだろうと。2200mの女王杯を勝っていましたけど、牝馬同士でしたからね」

 スカーレットは5番人気。好スタートを切り、外から来た馬を先に行かせて道中は2番手につけた。4コーナーで先頭に並びかけたが、内からマツリダゴッホにかわされ、2着に惜敗。3着は半兄のダイワメジャーだった。安藤はこうつづける。

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photograph by Yoshiharu Hatanaka

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