武豊が勝利を確信したレースは急転回の結末を迎えた。悔恨は安堵に、歓喜は落胆へと変わった。決戦に向かう両陣営の思惑や感情が交錯した大勝負。24年前、両雄が火花を散らした4cmの記憶を辿る。
尾形充弘はゴンドラにある調教師席でレースを見ていた。検量室には遠いが、ゴール板を見下ろす位置にあって見やすく、中山競馬場ではいつもここで見ている。
1年前は夏負けで苦労したグラスワンダーも、この年は順調に秋を迎えた。毎日王冠は鼻差でメイショウオウドウをくだした。苦戦といえば苦戦だが、秋の滑りだしとしては悪くない。並んだら負けず嫌いな一面がある馬で、よく頑張ってくれた。
しかし、4歳になってから右前脚の橈骨に骨膜炎がでて、それを気にしすぎるグラスワンダーは、左回りの東京では走りがぎこちなかった。左手前(左前脚を前にだして走る)でコーナーをまわり、直線で右手前に替えるのだが、右手前で速く走るのを嫌がり、すぐに左手前に替えてしまうのだ。そのうえ、左脇腹も痛めた。さいわい軽傷で、ジャパンカップは使って使えないことはなかったが、無理をさせず休ませることにした。結果的にそれがよかったのか、有馬記念に向けて順調に仕上がっていた。
ファン投票ではグラスワンダーはスペシャルウィークにつづく2位だったが、馬券では単勝2.8倍で1番人気に支持されていた。
白井寿昭はゴール板をすぎた位置にある厩舎関係者の席で見ていた。ゴールシーンを斜めから見るかたちになるが、検量室のすぐ上にある。
秋のスペシャルウィークは京都大賞典で7着に終わった。夏負けの影響で体調も芳しくなく、はじめて経験する大敗だった。そこから立て直し、16kgも体を絞って臨んだ天皇賞は本来の姿に戻り、後方から追い込んでステイゴールドを首差で抑えた。
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photograph by Hideharu Suga