まるでこうなる事を予想していたかのように、切り札を切る場面がやってきた。
残された攻撃は1回。しかもすでに2死。あとアウト1つで勝ちはなくなるところで、巡ってきたチャンスだった。1番の塩見泰隆が三遊間を破ると、三塁ベンチから高津臣吾監督が満を持して出てきた。
「代打・川端!」
今季の代打での打率は3割6分6厘。“代打の神様”としてリーグ優勝の立役者の一人となった川端慎吾というカードを、ここでようやく指揮官が切ったのである。
「ランナー一塁で、後ろも山田(哲人)、村上(宗隆)と3、4番がいた。何とか後ろに繋ごうという気持ちで(打席に)入ったんですけど、ランナーが二塁に行って……またいいところに落ちてくれました」
カウント2-2からパスボールで塩見が二進した後の7球目だった。内角スライダーにどん詰まった。それでも最後に左手で懸命に押し込む。フラフラと遊撃手の紅林弘太郎の後方に上がった打球が、前進する左翼手の吉田正尚との間にポトリと落ち、塩見が一気に日本一を決めるホームへと頭から滑り込んだ。
「7回くらいからずっと準備をしていたので、いつ(出番が)きてもいいように準備はできていた。いいところで回ってきてくれました」
前回の2015年のリーグ優勝は、攻撃的2番打者という真中満監督の期待に応え、首位打者も獲得してチームの背骨を支えた。しかし2017年に椎間板ヘルニアを発症して2度の手術を経験。腰のケアをしながら代打という仕事に活路を見出した今季は、ひたすら出番を待ち続けて、一瞬の勝負に自分の技術のすべてを注いできた。
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photograph by Naoya Sanuki