決着の瞬間、若者は雄叫びを上げ、跳び、走り出していた。その歓喜と安堵に垣間見えた、牽引する自負と4番の重圧。風格さえ漂わす21歳がまた一歩、成長の階段を登った。
心が爆発しそうだった。
日本シリーズ第1戦。同点に追いつかれた9回だ。オリックスの吉田正尚のサヨナラ打がセンター・塩見泰隆の頭上を抜けると、村上宗隆は三塁の守備位置から呆然とその打球を見送った。いきなりの逆転サヨナラ負け。一塁ベンチからオリックスナインが次々と飛び出し、マウンド付近がお祭り騒ぎとなる。それを横目に敗れたヤクルトナインが無言で引き上げていく。
だが村上だけが動こうとしなかった。
激しく渦巻く感情にしばし呆然と立ちすくんでいるように見えた。そしてようやくベンチに向かって歩き出したその刹那だ。
グラブで口元を隠すように覆った。
「ウォーッ!」
やり場のない悔しさを込めた咆哮をあげたのだ。グラブの端からこぼれ落ちるように剥き出しとなった激情は、この21歳の主砲が抱く勝つことへの渇望だった。
「自分たちの野球ができれば自ずと結果は見えてくる。受け身にならずに、しっかりと攻めていきたい」
開幕前にこう語って臨んだ初めてのシリーズ。いきなり立ちはだかったのは、東京五輪の日本代表でチームメイトとしてその凄さを実感してきた山本由伸だった。
その山本から第1打席に中前に弾き返してシリーズ初安打をマーク。その後は2打席連続三振に打ち取られたが、同点の8回には3番手のタイラー・ヒギンスから中越2ランを放って、自らの手で勝利を手繰り寄せたと思った直後のサヨナラ負けだった。
ただこの抑えられなかった激情こそが、自らが先頭に立って逆襲への扉を開いていく、村上のエナジーとなるものだった。
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photograph by Hideki Sugiyama