メジャー屈指の強力打線に力勝負を挑める日本人投手は、過去を含めてそうはいないだろう。
8月31日、シアトルでのアストロズ戦。チーム打率でリーグ1位、得点同2位、OPS同1位タイのアストロズ打線に7回4安打無失点だったマリナーズ菊池雄星は、気持ちよさそうにこう言ってのけた。
「久しぶりに『投げた』という感じです。真っ直ぐは僕が一番自信を持っているボール。理想のピッチングができました」
95球中、60球以上がストレート。地元放送局の解説者が「3年間で最も直球の割合が多かった」と興奮気味に伝えていた。
「岩隈さんとよく話し合って、フォームが改善されました」
登板3日前、岩隈久志・特任投手コーチに、インステップ気味の右足踏み込みを真っ直ぐにしてみないかと助言された。8月のクオリティ・スタート(6回以上投げて3自責点以内)は1度だけ。11日前の同カードでは今季最短の2回2/3で同最多7失点を喫していた。
菊池が崩れるパターンは腕の「横振り」が原因のケースがほとんどだ。抑えたい、という気持ちが強すぎたり、無理に球速を上げようとすると無意識のうちに体が本塁方向に突っ込み、体軸が傾く。すると左腕の角度が下がり、直球が引っ掛かったり、変化球の曲がりが小さくなったりしてしまう。8月のスランプでも、この「横振り」がよく起こっていた。
「オールスターちょっと前くらいから、キャッチボールの感触がしっくりこないんです」とこぼしていた左腕の感覚が噛み合った。午後7時11分のプレーボール直後、先頭打者ホセ・アルトゥーベに約95マイルの内角速球が決まる。ズドンというミット音が聞こえてきそうな、重そうで、かつ伸びのある球だった。
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