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<真のアスリート第一とは?> 為末大が語る「東京五輪1年延期」

2020/04/22
夢の祭典開幕へのカウントダウンは「あと122日」でリセットされた。人類への試練ともいえる世界規模の新型コロナウイルスの感染拡大。その中での「もう1年」はアスリートに何をもたらすか。論客2人に話を聞いた。(Number1001号掲載)

 東京五輪の1年延期が発表され、私がまず考えたのがピーキングについてだ。

 陸上競技では、ピーキングをするための準備には3つの“層”がある。1層目は「2勤1休」や「3勤1休」という3、4日の練習と休養のリズムのこと。次の2層目は、2勤1休などで練習を3サイクル行ない、1サイクル休むという約2週間のリズム。そして最後が、1年の中でターゲットレースを決め、大きな波をつくる3層目だ。

 最も延期の影響を受けそうなのが3層目だ。陸上は1年をかけて料理をする作業に例えることができる。秋から食材を揃え始め、11月頃から出汁をとったり、食材を切りそろえたりといった仕込みをして、下ごしらえが終わるのが2月頃。その後は材料を火にかけ、味を調え、五輪や世界陸上のある7月末に最高の料理を出す。

 今年は五輪が1年延期になって料理を出す場がなくなってしまったが、せっかく身体を作ったので100%の力を試したいと考える選手もいるだろう。4月ならシーズン全般の出来がどうなるかが、ある程度見えている時期だ。陸上は「準備の競技」なので、4月なら70~80%、5月になれば92、93%は自分がどれくらいのパフォーマンスを出せるか予想がつく。冬季練習がうまくいって手応えがあるなら、記録会やレースに出たいという思いは一層強いだろう。

夏にしかハードル間13歩では走れなかった。

 また、ハイシーズンの身体でないと試せない技術というものがある。自分の専門種目だった400mハードルを例にお話をしたい。私の場合、ハードル間の歩数は13歩なのだが、この歩数でスタートから5台目までを走れるのは、1年の中でも夏場の1、2カ月しかなかった。その時期でないと13歩では届かなくなり、ハードリングなどの技術を試そうと思ってもできなくなってしまうのだ。東京五輪でメダルが期待される4×100mリレーの場合は、全員のレベルが揃わないとバトンパスを突き詰める練習ができない難しさも加わるだろう。

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photograph by Asami Enomoto

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