ただボールをもって速く走るだけではない。受け方、コース取りに各人の哲学が滲んでいる。かつてW杯3大会を駆け抜けた名ウイングが、ダブルフェラーリの走りの違いを解き明かす。(Number996号掲載)
ウイング。
熱狂のワールドカップ、日本代表の11番と14番にボールが渡っただけで、どれだけワクワクしたことか。
福岡堅樹と松島幸太朗。
日本が授かった異能のふたり。ディフェンス・システムが極度に発達した現代ラグビーにおいて、個人技でトライを取り切るふたりのスピード、強さには目を見張った。
日本代表がW杯の5試合でマークした13個のトライのうち、松島が5個、福岡が4個を挙げている。13分の9。両翼でトライを取るプランが遂行できたのは、彼らが最高のパフォーマンスを発揮したからでもある。大会期間中、ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチはふたりのことを「フェラーリ」と呼んだほどだった。
なぜ、福岡と松島は世界クラスのウイングになれたのか。そしてふたりの特質の違いはどこにあるのか。
ここは彼らの先輩に知恵を借りよう。W杯には2003年、'07年、'11年と出場し、トップリーグでは歴代最多の通算109トライをマークしている小野澤宏時にウイングの「醍醐味」を聞いてみた。
「タッチラインから5mのところにラインが引かれていますが、この“5m”はウイングにとって、とてつもなく広いスペースです。このエリアでの攻防をぜひ楽しんでほしいです。ボールを持ったウイングの見せ場は、タッチライン際、外側を抜くということです。11番であれば左、14番ならば右ですね。なぜなら、内側に切れ込んで相手を抜いたとしても、ディフェンスのバックアップが届きやすくなるんです。外ならば、より相手から遠ざかり、トライのチャンスが膨らみます」
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photograph by Tsutomu Takasu / Atsushi Kondo