#992
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<東京五輪へ繋がった名勝負> 服部勇馬「未来が咲いた花の2区」

2019/12/15
その年の23.1kmには現在の長距離界の中心選手が集結した。順大のスーパールーキー、神奈川大の2年生エース、そしてマラソンでの東京五輪出場を夢見ていた東洋大の主将。日本を代表する才能が揃った「花の2区」を振り返る。(初出:Number992号<東京五輪へ繋がった名勝負>服部勇馬「未来が咲いた花の2区」)

 走り終えた服部勇馬に笑顔はなかった。箱根駅伝の区間賞を2年連続で獲ってなお、満たされぬ思いがあったのだろうか。

 あの日、東洋大学の4年生、服部の胸を満たしていた感情は、単純な喜びではなかったのかもしれない。

 2016年1月2日、服部は自身3度目となる箱根の2区に挑んでいた。

 服部の学生時代を振り返ったとき、とりわけ印象深いのが最終学年で迎えたこの大会である。この年、2区には3人の留学生ランナーを含む、各校のエースがそろい踏みしていた。

 まず先手を取ったのは青山学院大学だ。1区の久保田和真からトップで襷を受け取ると、一色恭志が勢いよく駆け出す。53秒後に7位で襷を受け取ると、服部は焦る様子もなく前を追った。服部はその時の気分までもをよく憶えていた。

「僕はわりと感情が先走って、前半から突っ込んでしまうことが多いんですけど、この時は前を追うよりも自分が準備してきたことを出すことに集中してました。本当に集中しているレースって意外と冷静で、周りのことがよく見えるんです」

 感覚が研ぎ澄まされた心の状態を、アスリートはよく「ゾーンに入る」という言葉で表現するが、服部の感覚はそれとは少し異なるらしい。

「長距離は走っている時間が長いので、集中している時間も一瞬じゃないんですよ。ずっと気持ちも冷静で、僕の場合は言葉が出てくる。もう一人の自分と対話する感じなんですけど、年に1回くらい、そうやって集中できるレースがあります」

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photograph by Kenta Yoshizawa

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