少年のころ札付きのワルだった男がボクシングと出会い、チャンピオンへとのし上がっていく。そんなストーリーがボクシングの世界にはごろごろしている。それは実話のこともあれば、あとから脚色された、限りなくフィクションに近いものもあるだろう。どちらにせよ、ボクシングの世界ではそんなストーリーが好まれる。なぜだろうか。それは、そうしたストーリーがボクシングのヒストリー(歴史)そのものを映し出しているからにちがいない。本書を読んで私は思わずそんなことを考えた。
事実、ボクシングは、こぶしで相手を倒す荒々しい暴力が厳格なルールにしたがうスポーツへと昇華したところに成立した。本書はその過程を具体的かつ丁寧に論じている。その射程はきわめて広い。なにせ古代ギリシア時代(つまり古代オリンピックが開催されていた時代)の拳闘にまでさかのぼってボクシングの前史をたどっているほどだ。こぶしで殴り合う競技は世界のいたるところで見出される、と本書はいう。それだけ、こぶしで相手を殴るという行為は人間にとって普遍的なものなのだ。
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photograph by Sports Graphic Number