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100年前の“生”をめぐる戦い。「野蛮な知性」は今も鮮やかに。~司馬遼太郎の心を打ったアメリカ文学~

2017/10/11

 ジャック・ロンドンと言えば、『野性の呼び声』。カリフォルニアの大邸宅に飼われていた大型犬バックが盗み出され、アラスカの雪原で橇引き犬として酷使される。“棍棒と牙の掟”の中でバックは野性に目覚め、オオカミの群れに加わり、そのリーダーとなる。適者生存、弱者への軽蔑、暴力と力への傾斜、原始社会へのあこがれなどが浮かび、ロンドンの立ち位置がよくわかる名作だ。

 本書ではそんなロンドンの二百本もの短編から逸品九本が選ばれた。今回はそのうち四編を紹介。まずボクシング物。「一枚のステーキ」は、アメリカのスポーツ・アンソロジーに取り上げられる作品の定番だ。老ボクサーが若者との試合に挑んで敗れ、無一文のまま家に帰るだけの単純な話。「一枚のステーキさえ」食べていたら勝てた、と老いと貧困と空腹にあえぐ老ボクサーの姿を作者は冷徹に見つめ乾いた文章で描く。迫力ある試合の描写は、年寄りが若者の前にくずおれる戦いの定めを生々しく突き付ける。「メキシコ人」は人種的偏見でレフリーまで相手側につく中で勝利するメキシコの若者が主人公。若者の戦いは革命運動を助けるための賞金稼ぎだが、訴えてくるのは「一枚のステーキ」と同じ、“生きるための戦い”に挑む男の姿である。

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photograph by Sports Graphic Number

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