大きな太陽の赤、その下に金色で五輪マーク(本書カバーでは外してある。IOCの版権からだろう)と「TOKYO 1964」の文字。シンプルで力強く、美しいこのエンブレムのデザインは亀倉雄策、続いて6人のランナーのスタートの瞬間を捉えたポスターを送り出す。撮影には30回のスタートが必要だった。世界中で絶賛された伝説の傑作ポスターだ。本書は、日本初の五輪を支えた有名、無名の“裏方”たちの物語。
選手村食堂の食事作りの指揮を執った帝国ホテルの村上信夫シェフ。エスニック料理は部下と手分けして各国の在日大使館を訪ね、その国の料理を作ってもらい試食しレシピにまとめた。地方から来たコックが「知らない」というメニューは、1人前作って食べさせた。料理自体を知らなければ調理ができないからだ。リアルタイムで競技結果を集計するシステムの開発、民間警備会社の奮闘も見逃せない。ピクトグラム(絵文字)が標準化されたのも東京五輪が初。トイレの「男女」の識別など、今も使われる「絵文字」の多くが誕生した。12人のグラフィックデザイナーは3カ月の仕事を終えると1枚の書類に署名を求められた。「絵文字の著作権は放棄する」、責任者は「絵文字は社会に還元するものだから」というのだ。駆け込みで表彰台作りを頼まれた職人はメモ並みの図面をチラリと見て、すぐトンカチを手にして作ってしまった。市川崑監督の記録映画を猛批判した国務大臣・河野一郎に高峰秀子が面談して両者の話し合いを勧める。こんなきらりと光る話が随所にある。
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