博多の人・王貞治BACK NUMBER
「五輪よりWBCよりMLBより凄かった」ON決戦の大舞台で…流れを変えた“ワンプレー”と主砲を襲った致命的アクシデント「今も悔いしかない」
posted2026/09/30 17:02
野球のあらゆるイベントを目にしてきた選手たちが驚愕するほどの注目を集めた「ON決戦」を前にした両雄
text by

喜瀬雅則Masanori Kise
photograph by
Naoya Sanuki
日本シリーズ開幕前日。
東京ドームのホームベースを挟み、センターに向かって左に王貞治、右に長嶋茂雄。
2人が握手を交わした瞬間、けたたましいほどのシャッター音とともに、フラッシュのまばゆい光で、2人の姿が空中に浮き上がったかのように見えた。
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カメラマンが、バックネット裏に何重にも列を成し、最後列にテレビカメラがずらり。さらに、王と長嶋をぐるりと取り囲むように、記者たちがその一挙手一投足、言葉を逃すものかとばかりに目を光らせ、メモを取っていた。
ベテラン記者たちも現場に殺到
かつて、巨人時代に王と長嶋を担当した番記者たちは、新聞社やテレビ局で幹部クラスに昇格している人たちも多かった。そのベテランたちが「ON決戦」となれば黙っていられないとばかりに、現場へとやって来た。
私は当時、サンケイスポーツで鷹番1年目の33歳だった。王との付き合いの浅さはもちろん、野球記者経験もまだ7年目。王に関する原稿を書くたびに、上司から「こんな話は知らんのか?」「お前、聞いてないんか?」と、昔のエピソードを自慢げに開陳され、少々辟易させられた思い出がある。
王をよく知る、かつての巨人担当記者たちが、ひっきりなしにベンチにやって来る。懐かしい顔を見つけるたびに、王は「久しぶりだね」と応じる。そうすると、番記者としては肝心な、日本シリーズへ向けた直前の考えや選手の起用法といった、その日の原稿にしなければならない話題やエピソードを聞きたいのに、聞くタイミングを逸してしまう。
王は、そういうこともちゃんと分かっている。
「君たちも大変だね」
日本シリーズの期間中、王は宿泊しているホテルのロビーに、番記者を昼過ぎに集め、コーヒーサロンの片隅に席を確保して、そこで“試合前談話”に応じるというスケジュールを組んでくれた。話が終わると「これで大丈夫かい?」。こんな喧騒の中でも、気を配ってくれるのが、王貞治という人の、ある意味での“懐の深さ”でもある。

