博多の人・王貞治BACK NUMBER
「おい、ノーヒットだぞ?」落合博満より前にダイエー王貞治が決断していた“日本シリーズで無安打投手交代”…「個人記録は関係ないんだ」
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喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byKazuaki Nishiyama
posted2026/08/07 06:03
1999年、王ダイエーは日本シリーズで中日と激突した。王は勝利のためだけに次々と勝負手を打つ
「さっき、こっち(右中間)やったやん? みたいなね」
その尾花の計算が、見事なまでに的中する。疲れが出始めていた永井の139キロ直球が少し高めに浮いた。久慈が引っ張り込むと、打球は右翼ポール際へ一直線だ。
秋山が走る。左足をフェンスにかけ、高く飛び上がった。その“スパイダーマン・キャッチ”の超美技から、戻れなかったランナーが併殺となり、チームの失点を防いだのだ。
ノーヒット投球を続ける永井に代打?
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6回終了、永井のノーヒットは続いている。しかし、永井に打順が回ってくるタイミングで、尾花は「交代」を王に進言した。
「おい、ノーヒットだぞ?」
驚きを隠せない王に、尾花はベンチ奥に座り、汗をぬぐっていた永井に「もういっぱいやろ?」と声を掛けた。
「はい、もう無理です」
永井は、その時の心境を振り返った。
「日本シリーズも初めてじゃないですか。だから、くそっ、何で代えられるんや、みたいな余裕は、自分になかったかもしれません。悔しいというより、仕事を全うできたという安堵感の方が強かったです。あれ、例えば打席が2死無走者とかだったら、僕が立って、ヒット1本打たれるまでいかせてくれたかもしれませんけど、代打が出て、そこで点も取れたんで、チームとしてもいいジャッジ、ナイスゲームになりましたからね」
無死一、三塁、その追加点のチャンスで、永井の代打・大道典嘉が四球で満塁。そこから相手の失策で、貴重な3点目が入った。続く8回にも2点を追加した。7回からは篠原が2イニング、9回にはペドラザ。その“鉄板継投”で、ダイエーは2勝1敗と勝ち越した。
個人記録は関係ない
ノーヒットでの交代。王は、その決断をこう振り返った。
「個人記録は関係ない。俺は自分のことも考えていない。チームが勝つことだけしか考えてない。今、ここで何をするかっていうのは、チームが勝つことなんだ。ペナントレースで例えば、9回まで続いているとか言うんだったら(続投という)そういう考えもしたかもしらんけど、あの時は全然、それは考えなかったね」
後の2007年、中日と日本ハムの対決となった日本シリーズで、中日が日本一に王手をかけた第5戦、中日監督・落合博満は8回までパーフェクトピッチを見せた先発・山井大介を、1点リードの9回表に、守護神・岩瀬仁紀にスイッチした。あの“個人記録放棄”の交代と全く同じ、勝利に徹した非情なまでの割り切りでもある。



