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「名声もインタビューも、全部が嫌いでした」アリサ・リュウがじつは苦しんでいた“天才少女”の呪縛…なぜミラノ五輪で「メダルは必要ではない」と語ったか?
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松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2026/02/22 11:02
ミラノ五輪で金メダルを獲得したアリサ・リュウ(アメリカ)
北京五輪6位…その裏で巻き込まれていたある事情
その後、コロナにより国際大会が中止になり、出場機会が得られない時期もあったが、2021-2022シーズン、シニアに移行する。
ただ、成長期による体形の変化の影響はあっただろう、高難度ジャンプへの取り組みは苦戦を強いられる面もあり、グランプリシリーズではトリプルアクセルを決めきれずにいた。
それでも北京五輪代表に選出されると、フリーでトリプルアクセルに挑戦。回転不足にはなったものの着氷、最終的に6位入賞を果たした。そして大会のエキシビションにも招待され、羽生結弦、ネイサン・チェン、坂本花織らそうそうたるメンバーとともに演技を披露した。
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実は北京五輪出場の前後、競技とは関係のない動きにも巻き込まれていた。AP通信が伝えているが、2021年10月、米連邦捜査局(FBI)がリュウ一家に対し、中国当局の監視や嫌がらせの対象となっていると警告。父が天安門事件にかかわっていたことで、圧力をかける狙いだったと言われている。その中での北京五輪出場であった。
北京五輪の翌月には世界選手権に出場。ここで銅メダルを獲得し、順調に歩んでいくかに思えた。
競技引退「名声もインタビューも、全部が嫌いでした」
だが世界選手権からほどなく、アイスショー「スターズ・オン・アイス」出演のため来日していた4月9日、自身のインスタグラムにメッセージをアップする。
それは競技生活からの引退を告げる文章だった。
「5歳でスケートを始めてからの11年間は尋常ではない時間でした」
「正直、これだけたくさんのことを達成できると思っていませんでしたし、とても幸せで満足しています。スケートでやることはすべてやりました」
「今後は次の人生に進みたいと考えています」
「家族や友人と、そして勉強にもっとたくさんの時間を費やしたいのです」
競技生活から退くことに一切の悔いはないこと、次の人生に進みたい意思が表れていたが、内実はやや異なっていた。のちにAP通信の取材に対し、このときの心境をこう明かしている。
「スケートをやめたとき、スケートが嫌いでした。好きじゃなかったです。競技なんてどうでもよかった。順位なんてどうでもよかった。スケーターのこともどうでもよかった。ただ、遠くへ離れたかった。名声も、ソーシャルメディアも、インタビューも、全部が嫌いでした」
スケートを始めてから輝かしい成績を残しつつ、心はかけ離れていた。

