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柔道・角田夏実33歳が現役引退…“最強のライバル”も涙「なっちゃん、私を柔道に戻してくれてありがとう」親友の心を揺さぶった金メダルと巴投げ
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石井宏美Hiromi Ishii
photograph byJMPA(Natsumi Tsunoda),Kiichi Matsumoto
posted2026/02/08 11:27
パリ五輪女子柔道48kg級で金メダルに輝いた角田夏実。あれから1年半、第一線から退くことを表明した角田に対し、かつてのライバルが労いの言葉を送った
「彼女がパリオリンピックで優勝した姿を見て、私は道半ばで柔道を諦めてしまったけど、自分がやってきたことは決して間違いではなかったと思えるようになったんです。それでもう一度ちゃんと柔道と向き合えるようになったんです」
染宮さんの柔道人生にとって欠かせなかった角田の存在。染宮さんは1月末の引退会見を何度も繰り返し見たという。パッと思い浮かんだのは、今も鮮明に覚えていると話す、幼い頃の試合直前の緊張した面持ちだ。だがそれ以上に、パリ五輪で金メダルを獲った際の1シーンが蘇ってきた。
「畳を降りるまでは一切笑顔を見せなかった。表彰台に立って国旗が揚がったときには泣いていて。その姿は今でも心に残っています。どれだけの努力をして、辛いことを乗り越えてきたのか、そう思うと……」
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かつては自身も目指していたオリンピックの大舞台。染宮さんは言葉を詰まらせる。
「(パリ五輪までの道のりは)階級変更も含めて本当に大変だったと思いますし、怪我やプレッシャーに耐え続けてきたことは尊敬でしかありません。本当にお疲れさまという言葉を贈りたいですね。個人的には柔道に戻る勇気をくれた人なので、本当にありがとうという気持ちを伝えたいです」
審判資格の取得、選手復帰も視野
現在、コーチとして週3回、子どもたちを指導している染宮さんだが、昨年11月には「指導者としての経験が浅くて、選手目線でしか子どもを見られていなかった」と審判ライセンスを取得。そこには、正しい柔道を知り、より柔道を好きになり長く続けてもらいたいという柔道家としての切なる願いがあった。
「資格を取った翌日から審判をやらせていただいているんですが、まだまだ経験が浅いので、いつもガチガチです。自分のジャッジが与える影響を考えると、自分自身の問題だけではないというか。選手の頃よりも緊張感を持って畳に上がっています」
「まだまだ初心者です」と笑うが、経験を重ねるなかで、より適切な指導が出来るようになったと手応えも感じられている。
さらに今年6月には選手復帰も視野に入れ、動き始めている。
「普段子どもたちを指導しているコーチが、これだけ真剣に必死に取り組むという姿を背中で見せられたら、子どもが変わるんじゃないかと思って」
もちろん、試合に出るからには勝利を目指す。現在、週に2〜3回、母校・千葉明徳の柔道部員の胸を借り、30歳以上のベテラン柔道家が参加する日本マスターズ柔道大会へ向けて本格的にトレーニングに励んでいる。
「(練習は)相当きついですね。これだけ辛くて大変なことを33歳まで続けてきたんだと思うと……より彼女のすごさを感じずにはいられません」と角田を称える。6月の本番に向けた復帰へのプログラムをこなすのは容易ではないが、もちろんそこに一切の妥協はない。



