第102回箱根駅伝(2026)BACK NUMBER
「大きく成長したと思います」藤田敦史監督も認める駒澤大学主将・山川拓馬の頼もしき存在感とチームへの献身
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加藤康博Yasuhiro Kato
photograph byTadashi Hosoda
posted2025/12/26 10:00
11月の全日本大学駅伝でアンカーを務め、1位でフィニッシュする山川拓馬
その甲斐があり、この夏の合宿では初めて故障なくパーフェクトにメニューを消化。その姿に藤田監督は主将としての山川の成長を見た。
「夏合宿のとき、私たちのチームは(佐藤)圭汰、伊藤(蒼唯)が故障で出遅れ、また帰山(侑大)も故障明けで無理ができない状態でした。4年生でしっかり走れている主力選手が自分だけという状況の中、今までのように無理をしたらチームが崩壊するということを理解したのでしょう。周りを見るようになりましたし、自分自身を俯瞰して見て、やるべきことにしっかり取り組めるようになりました。大きく成長したと思います」
山川は文字通り、自分の背中を見せることでチームを牽引したのである。
精神面の充実からか、チームの雰囲気を高める声がけも増えた。今季、学生三大駅伝三冠を目標にしていた駒大は出雲駅伝で5位に沈んだが、山川は「まだ二冠はできる」とチームを鼓舞し、全日本大学駅伝の優勝へとつなげた。「山川がチームの結束を高めた」と指揮官が認めるほど、その言葉には力があった。山川はその意図と優勝によるチームの変化をこう話す。
「出雲駅伝は区間2位が4区間と決して悪いことばかりではないレースでした。なので、立ち止まる必要はないとチームに伝えたんです。そして実際に全日本大学駅伝で勝てたことで『もう1回、喜びを味わいたい』と、どの選手も集中力と自己管理能力を高めています。チームは大きく変わりました」
山川自身の全日本大学駅伝は8区で区間3位と、3年時に区間賞を取ったときに比べるとやや精彩を欠いたが、その原因は冷静に分析できている。
「2位と約2分差の先頭でたすきを受けたのですが、前回は同じくらいの差で自分が前を行く選手を追って逆転したことを思い出し、不安になって思うように走れませんでした。それは走力の問題ではなく、心の準備の問題です。これからは状況に合わせた走り方やレースパターンを練っておく必要があると痛感しました」
藤田監督の言葉にあった通り、俯瞰して自分を見られるようになったことも今年の成長のひとつ。それも主将を務めたがゆえだろう。
勝つ喜びをもたらす走り
山川にとって最後の箱根駅伝はどの区間を走るのか。これまで1年生と3年生で走った5区はともに区間4位で、2年生で走った4区は区間6位だった。そして前回大会直後から「次は2区を走りたい」と言い続けてきた。チーム事情を考えれば、タイム差のつきやすい5区に安定した結果を残せる山川を置きたいところだが、藤田監督は「山川には2区を経験してマラソンに行ってもらいたい」と教え子の将来を考えて、序盤のエース区間という選択肢も残す。だが箱根駅伝が近づくに連れ、山川の発言が変わってきた。
「 『何区を走りたい』という思いも大切ですが、主将としてチーム状況に合わせて、任された区間で結果を残せる頼もしい存在にならないといけないと思うんです。坂は5区だけでなく、2区にも権太坂や戸塚中継所前があって、いずれにしても上りの対策をしないといけません。もちろん2区と5区だけでなく、苦手な下り以外であればどこでもいきます」
主将就任時、山川は「自分たちが三冠を知る最後の学年。その経験を後輩に引き継ぎ、駒大の中で常にそこが目標となるようにしたい」と話したが、その願いは叶わなかった。そして山川より下の学年は箱根駅伝の優勝すら味わっていない。大学駅伝の中でもっとも難易度が高い大一番に勝つ喜びを後輩にもたらすのも主将としての重要な務め。勝利にこだわるその姿勢を走りで表現するつもりだ。


