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総合11時間切りでも10位に入れず…近年激化する箱根駅伝のシード権争いで求められる強化策とは《高速化がもたらす学生の躍進》

posted2025/11/19 13:00

 
総合11時間切りでも10位に入れず…近年激化する箱根駅伝のシード権争いで求められる強化策とは《高速化がもたらす学生の躍進》<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

第101回箱根駅伝10区でフィニッシュする青山学院大学の小河原陽琉(当時1年)。歴代最速の総合記録10時間41分19秒に伴い、シード権争いも激化している

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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Kiichi Matsumoto

 現代の箱根駅伝は、強く、そして速くなければならない。総合優勝を狙うにしても、シード権を手にするにしても。

 昨今の学生長距離界の躍進は目覚ましい。

 2025年の大阪マラソンでは、黒田朝日(青山学院大学)が2時間06分05秒のタイムで42.195kmを走破、これは日本学生最高記録となった。黒田に限らず、箱根駅伝を走ったランナーたちが、日本のトップレベルの選手たちと互角に渡り合えるようになってきた。

 それは偶然ではない。箱根駅伝の高速化は選手たちの実力が伸長していることの証左に他ならない。箱根駅伝の総合優勝の記録を振り返ってみると、この10年ほどの進化には目を見張ってしまう。

 かつては11時間10分を切れば、十分に優勝を狙えると言われていた。総合優勝のタイムが初めて10時間台に突入したのは1994年の山梨学院大学で、10時間59分13秒をマークした。この記録が生まれた背景には、山梨学大が花田勝彦、渡辺康幸らの日本代表級の選手をそろえた早稲田大学としのぎを削っていたことが挙げられる。

 ライバルの存在は、選手たちの力を成長させるのだ。

 しかしその後、優勝タイムは11時間台で推移していった。再び10時間台に入ったのは2011年の早大だった。この時の優勝タイムは10時間59分51秒。このレースは、早大と東洋大学の激しい競り合いが繰り広げられたこともあり、両校が刺激し合ってタイムが伸びたのだ。

 翌2012年は、東洋大が主将の柏原竜二を中心として前年の雪辱を果たす。タイムは10時間51分36秒で、大会記録を大幅に更新して優勝。前年、早大にわずか21秒及ばなかったことで「その1秒をけずりだせ」というスローガンが生まれ、1年間、練習の段階から1秒にこだわったことが大記録の達成につながった。

 そして、この年を起点として箱根駅伝のさらなる高速化が進む。2015年には青学大が史上初めて10時間50分を切って、10時間49分27秒で初優勝。本格的な高速化時代の到来を告げた。

 青学大はその後も次々に記録を塗り替える「フロントランナー」の役割を果たしてきた。2022年には初めて10時間45分の壁を突破し、10時間43分42秒の大会新記録で優勝。このとき、キャプテンだった飯田貴之は、さらなる高速化を予言していた。

「後輩たちは、気象条件が整えば、いつかは10時間40分切りを達成するかもしれません。10時間43分42秒ということは、10時間40分まで222秒。10人の選手たちがひとり22秒ちょっと記録を詰めればいい。この数字って、可能だと思うんですよ。その実力があることは練習で見ているので」

 飯田が4年生だった時に入学した世代が最上級生となった2025年、青学大は10時間41分19秒とさらに記録を更新して8度目の優勝を飾る。

 このタイムなら10時間40分まで79秒。ひとり8秒縮めればこの先に大記録が生まれることになる。ただ、他の大学だって黙っていないだろう。出雲駅伝の上位3校となった國學院大學、早大、創価大学。それに加え、全日本大学駅伝で優勝した駒澤大学、2位と健闘を見せた中央大学も、虎視眈々と上位をうかがっている。

シード権争いの激化

 高速化時代を強化の最前線で見てきたのが、神奈川大学の大後栄治前監督だ。2024年に監督を勇退するにあたってのインタビューでは、高速化の流れを振り返ってくれた。

「神奈川大が初優勝した1997年の優勝タイムは、11時間14分02秒でした。当時の強化方法はスピードというよりも、しっかりと距離を踏むことを優先していました。ハーフマラソンの距離を、みんなで一緒になって強くなっていこうというアプローチだったわけです。陸上競技は個人競技ですが、こと箱根駅伝に関してはチームスポーツ的な側面が強いんです。これは今も変わりません」

 しかし、高速化の流れのなかで、優勝争いだけではなく、それにつられるようにしてシード権争いにも大きな影響が表れてきた。大後前監督はこう話していた。

「いまでは、総合優勝のタイムが伸びただけではなく、シード権獲得ラインとなる10位のタイムも大幅な伸びを見せています。10時間台のタイムを出せれば、まず確実でした。ところが、いまではよりスピードを求められるようになってきて、各大学の監督さんたちは、シーズンを通して新たな強化策を求められているはずです」

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