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「小遣い30万円全然足りひんわ」中田翔36歳がいま明かす”ビッグマウスのガキ”だった19歳の頃の本音「単純にアホだった…今はダセエなこのガキって思う」―2025年下半期読まれた記事
text by

鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byYoshiyuki Hata
posted2025/12/25 11:01
今季限りで引退を決めた中田翔(36歳)。打点王に3度輝いた野球人生を語りつつ、プロ入団当時のヤンチャな思い出を明かした
「何でですかね。やっぱり根がアホなんで、一番楽なスタイルを選ぼうと思ったんです。もう、自然体でいこうみたいな」
尖った部分を隠さずに進んでいくスタイルは必然的に、熱狂的なファンとともにアンチを生み出した。
「若い頃からずっと思ってるんですけど、1000人応援してくれる人がいたら、2000人アンチがいるんです。よく、応援してくれる人と同じ数だけアンチがいると思え、みたいに言うじゃないですか。僕の場合はそうじゃなくて、アンチは絶対に倍はいるんですよ。なんかそういうスタイルでやってこれたっていうのが僕の強みですし、全員が全員、僕を応援してくれなくていいよというスタイルだったんで。そりゃあ人間だから、悲しいは悲しいですよ、例えば『おい、こら、死ね』とか、心無い野次が飛ぶわけだし、なんで俺、全く顔も名前も知らん人に死ねとか言われなあかんのかなと思いますよ。皆さんが知らないだけであって、やっぱり野次とか飛ばされてロッカールームで思い詰めちゃう選手ってたくさんいるんです。僕だって、みんなに好かれようとしてたら思い詰めていたと思います。でも傷ついてマインドが下がっちゃったら、胸張ってフィールドに立てないんで。徐々に失敗を恐れるようにもなってしまうし。それでうまくいかなくて3年後にはクビ切られてる選手を何十人って見てきてるんで。そこで、いい意味で開き直れたのは僕の強みかなと思いますけど」
心に負った幾多の傷
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自分に吹くのはいつも逆風である。その覚悟は中田を精神的にタフにしたのかもしれない。ただ一方で、偏ったキャラクターイメージは自らへの呪縛にもなったという。
「めっちゃメンタルきてても、なんかちょっとこう、キャラ通りに振る舞っとかなあかんよなって思ってる自分はいました。とくに4番を打つようになってからは、打てなくてショボンとしとったら、また、ああだこうだ言われるし。心の中では別のこと思っていても、口に出すのは例えば『そんなん知るか』みたいな言葉だったり。気が休まるところは本当なかったっすね。一人になって考えたいけど、そういう場所もなくて、札幌ドームから車で帰るときに、飛ばしたら20分ぐらいで家に着くんですけど、ゆっくり走って、遠回りして2時間ぐらいかけて帰ったこともありました」
もっと他人とぶつからず、肩肘張らずに生きる道はなかったか。心に負った幾多の向こう傷を振り返りながら、中田は苦笑いを浮かべていた。
秋の夢想は続く。中田にはもうひとつ、叶わないと知りながら抱え続けてきた“もしも”がある。

