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ボクシングPRESSBACK NUMBER
事前予想は「那須川天心の判定勝利」だったが…元世界王者・飯田覚士が驚いた井上拓真の対応力「こう来たかと思って…背中がゾクゾクってしました」
text by

二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2025/11/29 11:02
WBC世界バンタム級王座をかけた井上拓真と那須川天心の大注目の一戦。元世界王者の飯田覚士氏はこの試合の勝負の分かれ目をどう見たのか
「今度は、拓真選手に“なるほど、こう来たか”と思って、背中がゾクゾクっとしましたよ。前に行って距離を詰めていくやり方にシフトするわけですけど、これが絶妙でした。ファイターになって闇雲に行ったとしたら、おそらく天心選手に足を使われてカウンターを合わされるだけ。(前に)出てはいくんですけど、そこで止まったり、誘ったりして天心選手からすれば“もっと来てくれたら、カウンター取れるのに”という思いがあったはずです。
拓真選手は1、2ラウンドの動きは硬かったですけど、常に頭の位置を動かしていましたからこのラウンドになるとだいぶ体がほぐれていました。そして1、2ラウンドにパンチをもらったことで情報収集も出来た。前に出ても頭の位置を動かして天心選手の左ストレートだけは絶対に外すように徹底していたとは思います。何より3ラウンドに、ガラリと変えたところが凄い。情報収集したとは言っても、まだパンチを見切っているとまでは言い難い。見極めるにはおそらくもう1、2ラウンド必要なのに、彼は腹をくくって前に出ていった。かつ繊細な動きで、天心選手を惑わしていきます」
出てはいくけど、行き過ぎない。
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無理にパンチを当てようとせず、被弾しないことを意識しながらカウンターを狙う。あくまで揺さぶりが先で、隙あらばパンチを打ち込む。いい形で打てなくても、それはそれで構わない。同じくカウンターを取ろうとする那須川も井上の動きに惑わされ、1、2ラウンドのような自分のリズムを奏でられない。このことは何よりも那須川の感覚を乱していく。
メイウェザーの動きが消えた?
筆者が冒頭で2人の戦いを「セッション」と記したのは、飯田があのフロイド・メイウェザーを例に出して、次のように表現したからである。
「メイウェザーは足を止めて上半身をゆっくり体を動かしていても、実は体内では高速でビートを刻んでいるんですよね。だからダカダカダカダカダカ、パンってすぐに反応できる。1、2ラウンドを見たとき、天心選手はそれをやりたいんだと思いました。16ビートだとしましょうか。でも拓真選手の出方によって、乱れが生じましたよね。相手が来そうで来ないから、警戒が強まる。するとどんどん腰を落としていって1、2ラウンドのような、そのメイウェザーのような動きが消えていったんです」

