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「夫が泣きながら電話してきたの」世界陸上で落とした結婚指輪…“競歩金メダル”カイオと妻がブラジルで語る夫婦愛「心に大きな穴が開いたよ」
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沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byKiichi Matsumoto
posted2025/12/03 11:00
世界陸上男子20km競歩で金メダルに輝いたカイオ・ボンフィム。しかし本来はあるはずの左手薬指には結婚指輪がなかった
――それからわずか1週間後の9月20日、あなたは20kmにも出場。優勝候補の筆頭は、世界記録保持者の山西利和選手でした。
「彼は世界のトップアスリート。僕も、彼が世界記録(1時間16分10秒)を出した今年2月の日本選手権にオープン参加し、自己ベストを塗り替えた(1時間17分37秒/ブラジル国内記録)。2022年の世界陸上オレゴンでも一緒に歩き、彼が優勝して僕は6位だった。人間的にも素晴らしい男で、彼とはよく話をする。蒸し暑いこともあって35kmと同様、僕は後半に勝負する作戦で臨んだ」
自分は2位だと思い込んでいた
――レース中、コーチである母ジャネッチさんと多少の意見の食い違いがあったとか。
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「中盤、僕が先頭集団から離されていたので『早く先頭集団に追いつこう』 という指示を受けた。でも僕はこのレースでも良いリズムで歩けていると感じており、警告が少ない状態で終盤にトップグループに追いつけたら勝機がある、と考えていた。だから『いや、これで大丈夫だと思うよ』と伝えた」
――そして終盤、実際に猛烈な追い上げをみせた。19kmでトップに立ちました。
「実は、僕は山西がペナルティーゾーンに入った(15km地点で3度目の警告)のを知らなかった。すでに彼がゴールしていて、自分は2位だと思い込んでいた」
――えええ、そうだったんですか。
「『優勝はできなかったか。35kmに続いて銀メダル。悪くない成績だけど、妻のジュリアーナは何て言うかな』と思いながら、懸命にゴールへ向かった。ところがゴールにテープが用意してある。『おかしいぞ。35kmのときも2位だったけど、テープはなかった』と思いながらゴールラインを通った。それで電光掲示板を見たら、僕が1位になっている。これはひょっとして、と思ってスタンドにいたジャネッチに『僕は2位なの、1位なの?』と大声で尋ねた」
ヤマニシは素晴らしいアスリート、人間だ
――なるほど、テレビの画面にあなたが二本指を立てて誰かと話している姿が映っていましたが、その先にジャネッチさんがいたわけですね。
「そうなんだ。するとジャネッチが『何言ってるの! あなたが優勝したのよ!』と叫んだ。それを聞いて全身が雷に打たれたようになり、『うああ、ついに世界チャンピオンになった!』と思って頭を抱えた。僕はジャネッチと抱き合い、一緒に泣きながら勝利を祝った。これまでの人生で、最高の瞬間の1つとなった」

