フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
「後悔しないように…」演技直後、涙の跡が残った友野一希(27歳)が記者陣に見せた覚悟「うまいから点数が出る競技ではない」「あとは信じ切る力」
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田村明子Akiko Tamura
photograph byAFLO
posted2025/11/26 17:02
スケートアメリカで総合3位となった友野一希(27歳)
「いやー」と一声あげて、友野はこう続けた。「スケーターとしての良さは出てきてるかと思うんですが、まあスポーツなので。アスリートとしての強さだったりとか弱さというのが僕は点数に反映されると思っているので、そういう部分がまだ足りないのかなと思っています」そう言うと、一息ついてこう続けた。「ただうまいから点数が出る、という競技ではない。そこは自分の競技者としての弱さが反映されているのかなと思います」そうシビアに分析した。
本来技術点とコンポーネンツ/演技構成点は、別々に評価されるべきものとして設置された。だが友野が言うように、ジャンプを安定してきめる「強い」選手はコンポーネンツもどんどんと底上げされていく。ロシアが大会に参加していた当時、若い女子選手が大技を決めると、大会ごとにコンポーネンツがぐんぐん上がっていくのを、納得できない思いで見ていたこともある。
特にスケーティング技術は何年もかけて積み重ねていくもので、2週間や1カ月で突然上達するようなものではない。だが安定したジャンパーは、いつの間にかスケーティング技術も9点台になっている。これでは本来のコンポーネンツの役割を果たしていないのではないか、と疑問を感じたこともある。だが友野の「ただうまいから点数が出る、という競技ではない」の一言に、採点スポーツに人生を捧げた選手としての覚悟と潔さを見た。
「2位から6位が多い人生だったので…」
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グランプリ6大会が終了し、友野は惜しいところでファイナル進出を逃した。もっとも「代打王」のあだ名がついたほど、補欠からの繰り上がり出場が多いという運を持った友野のこと、名古屋ファイナルの出番ももしかすると回ってくるかもしれない。
だがとりあえず、現在わかっている次の大舞台は全日本選手権である。ここでミラノ・コルティナオリンピックの代表選考が行われる。現在のところ、GPファイナル進出決定の鍵山優真、佐藤駿がオリンピック代表に選ばれる可能性は高いが、3枠目は友野にもチャンスは大いにある。
「2位から6位がすごく多い人生だったので、追いかける立場が得意だったんですけど、そういう立場でやりきる、圧倒的な力を見せつけるというのが常に自分の中の課題」と次を見据える。
「しっかり帰ってもう一回、常にこういう状況をイメージしながら練習して行けたらと思いますし、まだまだそこが……1番になる勇気、じゃないですけど、でもあると思うので、(1番になれる)実力は。あとは信じ切る力だと思います」
全日本まで1カ月を切った。後悔の残らない、彼らしい演技を見せてほしい。

