フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
「後悔しないように…」演技直後、涙の跡が残った友野一希(27歳)が記者陣に見せた覚悟「うまいから点数が出る競技ではない」「あとは信じ切る力」
text by

田村明子Akiko Tamura
photograph byAFLO
posted2025/11/26 17:02
スケートアメリカで総合3位となった友野一希(27歳)
最終滑走のフリーは厳しいスタートに
SP95.77でトップに立った会見で、アメリカ人の記者からこのスケートアメリカが彼にとって16回目のGP大会であることを指摘されると、「数えたことなかったので、改めて聞くとすごいびっくりですし……頑張ってるんだなと……」と感慨深そうに答えた。
シニアに上がって9シーズン、豊かな音楽表現と踊りのセンスの良さで多くのファンを持ちながらも、これまで大きな大会のタイトルを何度も逃してきた。今回こそは、という思いがあったのに違いない。
だが最終滑走だったフリーの「Halston」では冒頭の4トウループで、2度転倒という厳しいスタートになった。持ち直して4サルコウ、3アクセル+オイラー+2サルコウなどは成功させたものの、フリーは149.80で8位に。合計245.57で、総合3位に終わった。
ADVERTISEMENT
「どこかやっぱり、何か違ったんだと思います。自分の中では結構いいリズムでできてたと思うんですけど、やっぱり難しいなと思いました」と演技を振り返った。
「3位で悔しいと言えるようになった」
最終滑走というプレッシャーはどのくらいあったのか。またそれでも表彰台に残ることができたことを、どう感じているか。会見でそう質問すると、友野はこう答えた。
「プレッシャーを感じたりもしたんですけど、今日は今までの自分へのリベンジ、と言いますか、今までも同じ状況で難しかったなという試合が多かったので」と考えながら、言葉を紡いでいった。「今日こそは、と戦いに行く気持ちでいったんですけど、まあ今日も駄目で……。優勝を意識した中で、最終滑走で滑るっていうのは難しさを感じましたし、それがスポーツの楽しさでもある。本当に悔しかったんですけど、3位で悔しいと言えるようになったんだ、とも思うんです。でもやっぱり1番を目指して頑張ってきた場所だったので、そういう悔しさは初めてだし、とても貴重な経験。ポジティブにとらえて全日本にぶつけられたらと思います」
会見後の囲み取材では、こう感想も述べた。
「ここまで悔しいと思える3位は経験したことなかったし、なんだかんだまあ3位だからよかったね……で、結構帰ったりすることが多かったので。僕、結構試合のことすぐ忘れるんですけど、(この試合は)一生忘れないだろうなっていうふうに思います」
コンポーネンツが9点台に届かなかった理由
現場で見ていた印象では、SPはもう少し点が伸びてもよかったのではないかと感じた。4回転2本と3アクセルをノーミスできめ、最後までスピードを保って踊り切った。今の現役男子の中で、友野ほどのリズム感を持っている選手は稀有である。SPのコンポーネンツは、9点台が出てもおかしくなかったと感じたが、本人はどう思っているのだろう。


