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プロ野球PRESSBACK NUMBER
「青木宣親さんがやってきた!」普通の工業系高校“初のドラフト指名”はなぜ起きた? ヤクルト育成1位左腕は「右利き用グローブで野球始めました」
text by

杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byKawasaki city high school for Science and Technology
posted2025/11/14 17:00
学校で初のNPBドラフト指名で、川崎総合科学高校は沸き返った。ヤクルトの青木GM補佐(右)の来校に、小宮悠瞳本人はもちろん、遠藤監督(左)もニッコリ
「あの試合があったから、今があると思っています」
川和高校のグラウンドでしなやかに腕を振る姿は関係者の間で評判になり、春季大会2回戦の武相戦には、左腕を探していたヤクルトの余田スカウトが視察に訪れた。川和に3-5、武相には1-5で敗れはしたものの、可能性を評価されていたようだ。きっかけはどこに転がっているか分からない。
プロ注目投手と投げ合った夏
そして、迎えた夏の大会2回戦の湘南学院戦。サーティーフォー保土ケ谷球場のバックネット裏にはNPBスカウト関係者がずらりと並び、ヤクルトは余田スカウトに加えて、小川淳司GMらも足を運んでいた。シード校の相手投手は、190cmの左腕として高く評価されていた油田瑛太。目利きの玄人らが熱い眼差しを向けた左腕同士の投げ合いは、多くのメディアにも取り上げられた。ベンチで采配を振った遠藤監督は、しみじみと振り返る。
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「小宮は“持っている”と思います。相手がプロ注目投手のときには、必ずすごく良いピッチングをするので。それこそ、スカウトが視察に来るような試合で、悪い投球を見せたことはないです。ここぞという試合で、勝負強さを発揮しますから」
本人は意識していない。むしろ、湘南学院戦は夏の大会の初先発だったこともあり、試合に勝ちたい一心だった。朝から腹が痛くなるほど緊張し、ブルペンでも体が思うように動かない。「これはやばい」と思ったものの、初回の先頭打者に安打を許したとたんに、スイッチが入った。
「あそこで打たれていなかったら、逆に体が動かないままだったと思います」
プロ志望届を提出
酷暑にも負けず、173球を投げ抜いて、5安打2失点の完投勝利。9回裏に訪れた満塁のピンチをしのぐなど、窮地でも堂々と腕を振る姿はインパクトを与えた。
「同じサウスポーで自分よりも注目されていた投手でしたし、負けたくない思いは強かったです」
高校最後の夏はその4日後の3回戦であっけなく終わったが、ずっと心に決めていた。9月初旬にプロ志望届を提出。あとは運命の10月23日を楽しみに待つだけだった。
〈全2回の1回目/つづく〉

