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「左ヒザの大ケガ、まさかの2度目の転落…」元大関・朝乃山が見た“どん底”…記者が密着した復活劇「これが“最後の”平塚合宿となる覚悟です」
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佐藤祥子Shoko Sato
photograph byJIJI PRESS
posted2025/11/13 11:03
11月場所、元大関の十両・朝乃山(31歳)。2度の三段目転落を経て、先場所、関取に復帰した
左膝の手術を終えたばかりの朝乃山は、「せめて上半身だけでも鍛えよう」と、この合宿に参加していたのだ。3日間の合宿中、外出もせずに宿舎内の食堂で、その大きな体を休めていたものだった。そして再々十両を決めて戻って来た、今年の平塚合宿最終日。この1年間の汗が染み込んだ稽古用の黒廻しを、自ら手入れする朝乃山の姿があった。
やっと来場所からは関取用の白廻しを締められる。
「今日が最後の黒廻しなんですよね。これ、平塚に置いていこうかなぁ(笑)」などと軽口をたたきながら、まるで慈しむかのように丁寧に”最後の手入れ”を終えた。最後なのは黒廻しだけではない。幕内に昇進すると8月は夏巡業に帯同するため、合宿にはもう参加できない。平塚市の後援会員に、朝乃山はこう言い残していたという。
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「もう来られないのは寂しいですが、これが最後の平塚合宿となる覚悟で頑張ります」
“長い夏”が終わり…朝乃山は笑った
そして西十両13枚目で迎えた9月の秋場所――秋場所とは名ばかりで、まだまだ厳しい暑さが続いていた。朝乃山にとって、1年半ぶりの15日間の相撲だ。
「自分としてはリハビリ場所のつもりで、まずはケガなく終えられれば」
そう慎重な物言いで臨んだ。2日目、新十両の西ノ龍に土を付けられるなど、序盤戦はなかなかエンジンが掛からない。しかし日を追って感覚が戻って来るようでもあった。暑さも多少和らいだ秋分の日――10日目に勝ち越しを決めると、土俵下でフーッと大きく息を吐き、天井を見上げる朝乃山の姿があった。
迎えた千秋楽。この日の朝は、大関時代に付け人を務めてくれ、公私ともに支えてくれていた兄弟子の断髪式が行われた。




