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「左ヒザの大ケガ、まさかの2度目の転落…」元大関・朝乃山が見た“どん底”…記者が密着した復活劇「これが“最後の”平塚合宿となる覚悟です」
posted2025/11/13 11:03
11月場所、元大関の十両・朝乃山(31歳)。2度の三段目転落を経て、先場所、関取に復帰した
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佐藤祥子Shoko Sato
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JIJI PRESS
元大関朝乃山の、暑くて長い濃密な夏は、9月秋場所千秋楽で、やっと季節を終えたかのようだった。
例年にも増して酷暑となった今年の夏。7月名古屋場所は、西幕下筆頭の番付で5勝2敗。振り返ってみれば、コロナ禍での相撲協会が定めるガイドライン違反で、1年間のあいだ土俵に上がることができなかった朝乃山だったが、昨年の5月夏場所には東小結まで番付を戻す。大関再昇進も期待されるなかで右膝を負傷し、全休。
続く7月名古屋場所では、またしても左膝の大ケガに見舞われてしまったのだ。手術を選択し、その後3場所連続全休――ひたすらリハビリに励む雌伏の日々を過ごしていた。
「大関、具合が悪くなっちゃって…」
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今年3月の大阪場所では番付を三段目まで落とし土俵に復帰。7戦全勝優勝し、以降2場所で十両に戻ってきたのだった。この場所では、同じ高砂部屋の朝白龍が幕下優勝し、石崎改め朝翠龍も新十両に昇進を決め、同部屋から3人同時関取昇進の慶事となった。昇進が発表された場所後の番付編成会議の日、朝白龍と朝翠龍の新十両会見が行われた。この時、報道陣の要望もあり、再々十両昇進の朝乃山も、写真撮影だけ同席する予定であった。しかし、当日、風邪で体調を崩した朝乃山の同席は叶わなかった。
ある兄弟子が言う。
「大関(元大関ではあるが部屋内では朝乃山をこう呼ぶ)は、もう千秋楽の打ち上げパーティの時に、すでに具合が悪くなっちゃっていたんですよね」
前場所は幕下14枚目で、全勝優勝すれば十両昇進のチャンスがあったが、惜しくも6勝1敗に終わっていた。
「だから『今場所で決めなきゃ』との、相当な重圧があったんだと思いますよ。昇進相当の成績で場所を終えられて、もう体力も気力も精一杯だったんじゃないですかね」
「これが“最後の”平塚合宿となる覚悟です」
そして8月。故郷富山に帰省し、亡き父の墓に静かに手を合わせると、部屋恒例の神奈川県平塚合宿に参加した。思い起こせば、昨年の平塚合宿は痛々しい松葉杖姿での参加だった。


