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「M-1と決定的に違うのは…」“元は芸人出身”異端の落語家が振り返る“落語界のM-1”決勝戦の全内幕…「熱量が結果につながるのは、自明の理」
posted2025/11/06 11:05
お笑い芸人から落語家に転身し、異例の速さで二ツ目に昇進した立川吉笑。出世の大一番となったNHK新人落語大賞の内幕を振り返る
text by

生島淳Jun Ikushima
photograph by
BUNGEISHUNJU
今から3年前の2022年、その大賞に輝いたのが立川吉笑だった。熱を見せないことこそが“粋”とされる価値観の中で、吉笑はあえて戦略的に「競技落語」での冠を獲りに行った。そのウラにあった緻密な戦略と、圧倒的熱量のワケとは――?《NumberWebノンフィクション全3回の3回目/最初から読む》
2022年10月31日、東京・霞が関のイイノホールでは、NHK新人落語大賞の決勝戦が開かれていた。
NHKの新人落語大賞は、5人の審査員が10点満点で評価し、合計得点が一番多い落語家が優勝となる。この年の審査員は、桂文珍、三遊亭小遊三、片岡鶴太郎、赤江珠緒、堀井憲一郎の5人だった。
立川吉笑の出番は、3番手。
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事前のシミュレーション通りに、1番手、2番手の上方勢の高座が終わる。ウケは取れていたが、場を支配するほどではない。
ここから自分が出て行って、とにかくウケを取る。
吉笑にとっての肝は、とにかく「笑いの量」で圧倒することだ。それを脳裏に刻みながら、渾身の「ぷるぷる」を披露すべく高座へと上がっていった。
競技としての落語で重要な「時間管理」
「競技落語」の勝負において、大切になるのは時間の管理だった。
「M-1と決定的に違うのは、漫才は4分、落語は11分という尺の違いです。4分でももちろん難しいですけど、4分なら事前の稽古である程度制御しきれると思います。ところが11分の落語となると、自分たちだけで空間を作り切れない」
尺が長くなれば、当然その分、不確定要素が多くなる。客席や審査員の反応を見ながら対応しなければならないことも増える。持ち時間をオーバーすれば減点リスクがある一方で、短く終わってしまえばそれだけ話せる要素が減ってしまう。11分をいかに目いっぱいに使うかという、タイムマネジメントも大切だった。

