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「M-1と決定的に違うのは…」“元は芸人出身”異端の落語家が振り返る“落語界のM-1”決勝戦の全内幕…「熱量が結果につながるのは、自明の理」
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生島淳Jun Ikushima
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2025/11/06 11:05
お笑い芸人から落語家に転身し、異例の速さで二ツ目に昇進した立川吉笑。出世の大一番となったNHK新人落語大賞の内幕を振り返る
そんな吉笑の「熱量」が伝播したのか、このところNHK新人落語大賞を積極的に狙う二ツ目が増えてきた印象がある。
「自分もこうやって発信していたり、M-1の『アナザーストーリー』を見せられると『自分たちの熱量ってどうなんかな?』と感じる後輩たちが増えているのはたしかですね。間違いなく、M-1の影響はあると思います」
熱量が結果につながる…それは「自明の理」
「それでもまだ、熱量を持って挑んでいる落語家は3割くらいかな」と吉笑は分析する。
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「ただ、熱量を持った方が結果につながりやすいというのは自明の理です。自分の場合は、たまたま結果に恵まれてこうして話していますけど、自分の経験からすると、コンクールのヒリヒリ感を味わえて、それは自分にとって貴重な時期になったと思います。熱量をもって挑戦すると、悔しさも伴うんです。本気でやればやるほど、悔しい」
吉笑師匠の「競技落語」論を聞いていると、創作落語の現代性が浮かび上がってくる。
M-1の影響でコンクールにおいては瞬間、瞬間の笑いが求められている。そうなると、定型がある古典落語で戦うのはますます厳しいように思えてくる。
「でも、古典で勝つことももちろん可能だと思います。古典落語はしっかりした構造を持っているので、そこに笑いの要素をどのように入れ込んでいくのか。みなさん、そこに知恵を絞っているんだと思います。反対に、新作は落語本来の風情を出しづらいところがあって、そこはお互いトレードオフでしょうね」
吉笑は「このところ、新作が勝つことが多かったですから、古典で勝負してきた人たちがブレてしまっても仕方がないかもしれません」と話していたが、2025年のNHK新人落語大賞では、春風亭一花が古典落語の「厩火事」で優勝した。

