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「賞を狙うと公言するのも野暮」な世界で…ある異色の落語家が“落語界のM-1”を「狙って」獲りにいった意外なワケ「漫才師の熱量と明らかに違うと…」

posted2025/11/06 11:03

 
「賞を狙うと公言するのも野暮」な世界で…ある異色の落語家が“落語界のM-1”を「狙って」獲りにいった意外なワケ「漫才師の熱量と明らかに違うと…」<Number Web> photograph by Atsushi Hashimoto

2022年のNHK新人落語大賞を受賞した立川吉笑。伝統芸能の世界で「落語界のM-1」とも言える賞を獲るためにどんな策を練ったのか

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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Atsushi Hashimoto

 落語といえば、言わずと知れた日本の伝統芸能である。座布団ひとつでお客を噺に引き込み、その独自の世界観で魅了する。一方で、そんな伝統の顕現のようなジャンルにも「競技」の世界は存在する。中でも若手落語家の登竜門とされるのがNHK新人落語大賞だ。

 今から3年前の2022年、その大賞に輝いたのが立川吉笑だった。熱を見せないことこそが“粋”とされる価値観の中で、吉笑はあえて戦略的に「競技落語」での冠を獲りに行った。そのウラにあった緻密な戦略と、圧倒的熱量のワケとは――?《NumberWebノンフィクション全3回の1回目/つづきを読む》

“異色の落語家”が挑んだ大一番…その前日の一幕

 2022年10月30日のこと。

 翌日にNHK新人落語大賞の決勝戦を控えた立川吉笑は、呼び出した後輩とともに、夜の散歩に繰り出していた。

「やっぱり緊張して、落ち着かなくて。気を落ち着かせる意味が大きかったと思います」

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 勝ち残った6人で行われる決勝戦に向け、10月中旬に行われた抽選で吉笑が引いた出番は、3番目。

「M-1ではトップバッターが不利と言われていましたけど、新人落語大賞でも明らかに順番は影響します。このときは上方から3人、東京からは林家つる子姉さんと、三遊亭わん丈さんと僕の3人が参加者でした。上方の落語家さんの情報はそれほどありませんでしたが、つる子姉さんもわん丈さんも、どちらも圧倒的で、強いのは分かっていた。だから、その2人を明らかに本命として意識していて。

 僕としては、当然最後の6番目がいいなと思っていました。最後にまとめて全員分の採点をする仕組みだから、後であればあるほど審査員の印象に残りやすい気がして。でも抽選は僕がいちばん最初に引くことになって、結局3番目でした」

 ああ、3番目か。本当はもっと後ろがいいけど、とりあえずは1、2番手じゃなくて良かったな。

 そんなことを考えていると、強敵と見越していた林家つる子と三遊亭わん丈が、それぞれ5番手と6番手を引き当てていた。

「考えられる限り、最悪の3番手だと思いました(笑)」

 とはいえ抽選は自分が最初に引いているのだから、結果は仕方がない。そうなった以上は、どんな展開になれば勝てるのか。そこを考えるしかない。

【次ページ】 競技としての落語…その筆頭が「NHK新人落語大賞」

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