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「えっ」控室も驚き…藤井聡太から“二冠を奪った同学年”伊藤匠将棋は何がスゴいか「ただ“真の2強”になるには2日制で」と語る棋士も
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田丸昇Noboru Tamaru
photograph by日本将棋連盟
posted2025/11/04 11:04
王座戦第5局、伊藤匠は藤井聡太から2つ目のタイトルを奪い取った
終局後の伊藤の感想によると、「想定局面のひとつで、試してみたかった」という。事前に研究したとはいえ、最終決戦の対局で未経験の手を用いたわけで、その決断力には驚くばかりだ。
藤井は自陣の3筋と7筋に桂を跳ねると、66分の長考で9筋の歩を突き捨てて△6五桂と中段に跳ねた。一気に攻め込む厳しい狙いがある。ただ終局後の藤井の感想によると、成算のある仕掛けではなかったという。
伊藤は藤井の攻めをあえて呼び込んだのだ。そして31分と67分の連続長考で力強く応じた。
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藤井には飛車を切って先手玉を厳しく攻める順があった。しかし難解な変化となり、指しきれなかったようだ。そこで△5七桂成と捨てる手を26分で指し、取った歩を打って攻めた。控室ではまったく検討されていなかった。後に5筋に歩を打つ手を先手に与えるからだ。伊藤は▲5三歩の王手を打った。この手がやはり厳しく、藤井は終局後に「5筋に歩を打たれてから自信がなかった」と語った。さらに伊藤は藤井の飛車を取り、敵陣に飛車を打って後手玉に迫った。
「残り3分」藤井の勝ちパターンが…
終盤で面白い局面があった。
伊藤が玉の守り駒の金(銀)取りを放置して寄せにいくと、藤井はあえて金(銀)を取らなかった。先手玉の形がかえって安定し、逆転技をかけにくくなるからだ。両者のそんな状況が18手も続いた。
藤井には「残り3分」という勝ちパターンがある。
勝勢でも1分将棋の秒読みになるとミスが出やすい。そこで1手ごとに50秒まで考えれば、残り3分を維持できる。ただし秒を切り捨てる「ストップウォッチ」方式なら有効だが、王座戦は秒単位で消費時間を加算する「チェスクロック」方式なので使えない。
藤井は残り18分の局面で、持ち時間を使い切って先手玉に迫った。伊藤は藤井が狙う逆転技を冷静にかわし、最後は後手玉を即詰みに討ち取った。
王座戦第5局は、伊藤叡王が97手で藤井王座に勝った。終局時間は20時34分。消費時間は両者ともに5時間0分。その結果、伊藤は3勝2敗で王座を獲得した。初の二冠となり、タイトル獲得3期の規定によって九段に昇段した。
伊藤は本局で果断の指し方で自分のペースに持ち込み、中終盤のせめぎ合いを見事に制した。「伊藤強し」と思わせる会心の内容だった。
藤井が“実力不足”とは思えないが
藤井は終局後にこう感想を語った。


