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「えっ」控室も驚き…藤井聡太から“二冠を奪った同学年”伊藤匠将棋は何がスゴいか「ただ“真の2強”になるには2日制で」と語る棋士も

posted2025/11/04 11:04

 
「えっ」控室も驚き…藤井聡太から“二冠を奪った同学年”伊藤匠将棋は何がスゴいか「ただ“真の2強”になるには2日制で」と語る棋士も<Number Web> photograph by 日本将棋連盟

王座戦第5局、伊藤匠は藤井聡太から2つ目のタイトルを奪い取った

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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 藤井聡太王座(23=竜王・名人・王位・棋聖・棋王・王将を合わせて七冠)に伊藤匠叡王(23)が挑戦した第73期王座戦五番勝負。2勝2敗の五分で迎えた第5局は10月28日に山梨県甲府市「常磐ホテル」で行われ、伊藤叡王が藤井王座に勝って王座を獲得して初の二冠となった。藤井は六冠に後退した。王座戦第5局の激闘、伊藤新王座の抱負、今後の棋界勢力図などについて、田丸昇九段が解説する。【棋士の肩書はいずれも当時】

伊藤が“八冠独占”を崩した同会場での決着局

 王座戦第5局が行われた「常磐ホテル」は、創業96年の老舗旅館である。昭和天皇らの皇族が宿泊されたことから「甲府の迎賓館」と呼ばれている。将棋を愛好した井伏鱒二、松本清張、山口瞳など文豪の定宿でもあった。

 常磐ホテルは将棋と囲碁のタイトル戦の対局場として、これまでに数々の名勝負が生まれている。最初の対局は71年前の1954年(昭和29)2月12、13日に行われた第3期王将戦(大山康晴王将−升田幸三八段)七番勝負第6局。宿命のライバルといわれた両者の対局で、大山が勝って4勝2敗で王将を防衛した。その当時に揮毫した色紙が館内に展示されている。文言は「瑞氣集門」(大山)、「日月天在」(升田)。

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 2024年6月20日に行われた第9期叡王戦(藤井叡王ー伊藤七段)五番勝負第5局も常磐ホテルが対局場だった。そして伊藤が勝って3勝2敗とし、初タイトルの叡王を獲得した。藤井はタイトルを初めて失い、八冠から七冠に後退した。

 常磐ホテルは番勝負の最後に設定されることが多い。早く決着すると対局は行われないが、最終局に持ち込まれると大いに盛り上がる。

控室で「えっ」…伊藤は藤井の攻めをあえて呼び込んだ

 第73期王座戦第5局では「振り駒」が改めて行われ、伊藤の先手番に決まった(※持ち時間は各5時間、チェスクロック使用)。

 両者は飛車先の歩を伸ばして歩交換し、ともに浮き飛車に構えた。「相掛かり」という戦型で、以降の指し方は幅広い。3筋と7筋の歩を互いに突き捨てて戦いが始まると、意外にも前例が1局だけという形になった。

 伊藤は2筋の飛車を8筋に転じて飛車交換を迫った。ノータイムの一着で、前例はなかった。控室では「えっ」という驚きの声が上がった。飛車交換になれば、激しい攻め合いになる。藤井は相手の注文と見て、飛車交換を避けた。

【次ページ】 「残り3分」藤井の勝ちパターンが…

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