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日本シリーズ連敗の阪神に抱いた「3つのナゼ?」藤川球児監督の采配にみえた“迷い”の正体…“山川封じ”の対策は万全だったのか
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鷲田康Yasushi Washida
photograph byKiichi Matsumoto
posted2025/10/29 17:20
日本シリーズ第3戦で連敗を喫して1勝2敗となった阪神・藤川球児監督。その采配には“迷い”も垣間見えたか…?
【疑問2】豊田寛の起用に“覚悟”はあったか?
この日の先発オーダーで6番に起用したのは、シリーズ初出場となる豊田寛外野手だった。今季は33試合に出場して56打数13安打の打率2割3分2厘。しかし左投手には24打数7安打の打率2割9分2厘と3割近い実績を残していることを買っての抜擢だった。
今年の阪神打線は1番から5番までは不動。それに対してこの6番という打順は、選手の状態によってコロコロと入れ替わる“ジョーカー”的な打順である。
日本シリーズでも第1戦では島田海吏外野手、第2戦では指名打者で高寺望夢内野手が“ジョーカー”として起用された。そして藤川監督が第3戦に抜擢したのが、シリーズ初登場の豊田だったのだ。
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もちろん目的は1つ。ソフトバンクの先発左腕、リバン・モイネロ投手への刺客としての起用だった。
しかし“事件”は3回に起こった。
ソフトバンクの攻撃。この回先頭の牧原大成内野手の左中間への飛球に、目測を誤った豊田がチャージできずに二塁打としてしまった。
「迷ったというか判断ミスというか……。抜けるかなと思って、ちょっと膨らんで(打球を追って)しまった」
こう肩を落とした豊田だったが、このミスを藤川監督は許さなかったのである。
4回の守備から左翼を熊谷敬宥内野手に交代させた。若い選手がミスをしたら、その戒めとして交代させる。いわゆる教育的な“懲罰交代”は、どの監督も少なからずやっていることだ。藤川監督もシーズン中に度々、そういう選手起用を見せていて、豊田も走塁ミスで交代させられたこともあった。
ただ、ここは日本シリーズである。
藤川監督が豊田を抜擢した背景は、モイネロ攻略への期待だったはずだ。第1打席の中飛の内容が気に入らなかったというのがあるのか。だとしても3割打者でも安打が打てるのは3回に1回だ。第1打席で見たモイネロの球筋を踏まえた上で、もう1打席か2打席、少なくとも左腕が投げている間はチャンスを与える。先発で起用するということは、起用する側にもそれくらいの覚悟が必要ではなかっただろうか。
これが2つ目の「なぜ?」だとすれば、3つ目は8回の攻撃である。

