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「もはやF1の歴史の一部なんだ」ホンダF1伝説始まりの地でV12サウンドを響かせたRA272が成し遂げた1勝目の価値
posted2025/10/28 11:01
メキシコでRA272のステアリングを握ったのは角田裕毅だった
text by

尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Masahiro Owari
10月26日、メキシコ、エルマノス・ロドリゲス・サーキットのピットレーンに、白地に日の丸をあしらった伝説のマシンが日本人のメカニックたちに押されて姿を現した。
RA272——1965年10月24日に開催されたメキシコGPで、リッチー・ギンサーがステアリングを握ったそのマシンは65周で行われたレースで全周回トップを走行。日本の自動車メーカーとして初めて世界最高峰の舞台で勝利を収めたマシンだ。
ホンダにとって、このイベントは会社を挙げての重要なものだった。それはホンダ・レーシング(HRC)の渡辺康治社長だけでなく、ホンダ本社の三部敏宏社長も参加していたことでもわかる。
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「今年は、ホンダのF1初勝利から60年というわれわれにとって記念すべき年」
そう語る三部社長が身につけていたグレーのポロシャツは、RA272を走らせた当時のメカニックたちが着用していたつなぎをオマージュした特別な仕立てだった。ホンダはF1参戦60周年の昨年のグッドウッドなど過去に何度かRA272を走らせるイベントを開催してきたが、社長がこの色のポロシャツでサーキットを訪れたのは初めてのことだった。
伝説の始まりの地
このイベントが特別な意味を持つのは、ホンダがF1初勝利をメキシコで祝うのは今回が初めてだったからだ。
メキシコGPは1971年から85年まで休止していたため、10年目と20年目を祝うことができなかった。1986年に再開されたものの、1992年に再び休止。復活した2015年はホンダがF1に復帰したばかりで祝う余裕はなかった。
渡辺社長はこのイベントにはもうひとつの意味が込められていると語った。
「60年前にこのような偉業を達成した諸先輩方に感謝すべき日でもあります。ホンダの勝利はここから始まりました。この1勝があったからこそ、いまのホンダがあると言っても過言ではない。その勝利を挙げた日の記憶を忘れずに、これからも勝ち続けていくんだという思いを強く心に刻む日だと思います」
さらにこう続けた。

