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「もはやF1の歴史の一部なんだ」ホンダF1伝説始まりの地でV12サウンドを響かせたRA272が成し遂げた1勝目の価値
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尾張正博Masahiro Owari
photograph byMasahiro Owari
posted2025/10/28 11:01
メキシコでRA272のステアリングを握ったのは角田裕毅だった
「このデモ走行は単純に過去の偉業を称えるというものだけでなく、現在、日本でただひとりF1に参戦している角田裕毅がメキシコGPでRA272を走らせることで、ホンダの挑戦が過去から現在、そして未来へ続いていくことを世界に発信したいという思いもあります」
その思いを託された角田も、メキシコでRA272を走らせる意味を十分理解していた。
「昨年のグッドウッドでもRA272を走らせて、現在のF1マシンとはまったく違って驚きました。音も違うし、すべての挙動の変化もダイレクトに感じられて、乗っていて楽しかったのを覚えています。今回、メキシコでホンダのドライバーとして走らせることができるのは、とても光栄です。ホンダの存在なくしていまの僕はなかった。その感謝を思いを抱いてドライブしたい」
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午前9時25分、角田が乗り込んだRA272に搭載されたエンジンRA272Eに火が入る。1964年のRA271Eをベースにした改良型で、水冷60度V型12気筒・DOHC4バルブの横置きの1495ccは、独特のホンダ・ミュージックを奏でてコースへ出ていった。だが途中、走行がストップする場面があり、予定を完了することはできなかった。
それでも、RA272を走らせた角田は「この音を少しでも皆さんに聞いてもらえて良かったです」と、イベントを企画したホンダと主催者に感謝していた。
F1に欠かせぬホンダの存在感
このイベントはホンダや角田、そして日本のファンにとってだけ重要な意味を持つものではなかった。海外のメディアも数多く参加しており、あるコロンビア人の記者はこう言った。
「ホンダの歴史は、もはやF1の歴史の一部なんだよ」
メキシコGPでの勝利がなければ、80年代から90年代にかけてのマクラーレン・ホンダの黄金時代、そしてセナ対プロストの名勝負も誕生していなかったかもしれない。
今回のメキシコでは、ホンダの存在感の大きさを世界が再認識したとともに、ホンダ自身もF1における重責を感じたはずだ。
ホンダは2026年にワークスとして参戦を再開する。10年後の2035年に、再びホンダ・ミュージックが奏でられることを祈りたい。

