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「高校中退して遊んでばかり」「デビュー戦で負けてタバコを捨てた」“どこにでもいるヤンチャな若者”がなぜレジェンド格闘家に? 金原正徳42歳の半生
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長尾迪Susumu Nagao
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2025/10/05 11:10
『超RIZIN.4』のYA-MAN戦を最後に引退を表明した金原正徳(42歳)。20年以上におよぶキャリアのなかで、数多の強敵と対戦した
「デビューするまでは、ずっとタバコも吸っていた」
日雇いのバイトをして、パチンコを打ち、ときには盛り場にも繰り出す。無為といえば無為だが、幸福といえば幸福な青春時代。そんな時期に出会ったのが格闘技だった。
「高校をやめて毎日ずっと遊んでいたので、さすがにこのままじゃダメだと。なんかやろうかなぁと思ったときに、たまたま見つけたのが格闘技道場でした。本当に偶然です」
16歳のときに道場に入会したが、練習に行くのは週に1回程度。アマチュアの試合には出場していたが、プロになるつもりなど毛頭なかったという。当然、42歳になるまで現役を続け、格闘技が生業になるとは全く想像もしていなかった。
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「20歳でデビューするまでは、ずっとタバコも吸っていました。真剣に格闘技と向き合った期間ではなかったです。道場で負けても『こいつと喧嘩したら、強いのは自分だ』と思い上がっていた。寝技が全然わかんなかったので『寝技でやられても、打撃でぶん殴れば俺の方が強いでしょ』みたいなのは、ずっとありましたね」
道場の指導者から「プロの試合に出てみるか」と促されるがままデビューしたものの、先述したようにチョークで一本負けを喫する。地元の仲間たちも試合を見に来ていた。試合後、友人の家に集まっていたとき、それまでの人生で味わったことのない感情が湧き上がってきた。
「周りはタバコを吸っていたんですけど、僕は負けたのが本当に悔しくて、そのときにタバコをやめました。それ以来、1回も吸ってないですね」
メンソールのマールボロをゴミ箱に捨てた日から、金原が再びリングに上がるまでには1年の時間を必要とした。どこの団体に出たいといった具体的な目標はなかったが、「プロのリングでリベンジしたい」という強い思いと、負けた悔しさをバネにZSTで勝利をつかみ取った。フィニッシュは腕ひしぎ十字固めだった。
敗北の悔しさが耐え難いものであるように、勝利の喜びもまた格別であることを初めて知った。2004年9月12日。この日、21歳の金原正徳は真の意味で格闘技の魅力に取り憑かれた。
頭の中に「もっと強くなりたい」という意識が芽生えた。初勝利の2004年以降、金原は2、3カ月に一度という驚異的なペースで試合を続けた。
「いい加減、就職しろよ」父との約束
転機が訪れたのは24歳のときだった。約1カ月、MMAの本場アメリカでトレーニングを行った。合宿先はロサンゼルスの「チーム・オーヤマ」。UFCファイターを数多く輩出している名門ジムだ。同所での練習は、その後の選手生活に大きな影響を与えた。


