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なぜ女子プロレスラー・上谷沙弥は“お茶の間”にウケたのか?「涙も流す悪役」という魅力、23年ぶり地上波生中継で“じつは画期的だった”試合形式 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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posted2025/09/29 11:01

なぜ女子プロレスラー・上谷沙弥は“お茶の間”にウケたのか?「涙も流す悪役」という魅力、23年ぶり地上波生中継で“じつは画期的だった”試合形式<Number Web> photograph by Norihiro Hashimoto

9月27日、YouTube無料生配信となった一戦で、AZMを締め上げる上谷沙弥

上谷が10分間で見せた“一流の証”

 加えて言うなら、バラエティの生番組に出演しつつ、精神を集中させる時間もほとんどないまま見事に試合をしてみせたことも特筆もの。いつもより短い10分という試合時間の中、フィニッシュしたのは残り15秒を切ったところだった。もし試合終盤、大技の攻防で何かミスがあったら、時間切れ引き分けになっていた可能性もある。そうはならなかったところも一流の証だ。

 試合内容で印象深かったのは、上谷の受けっぷりのよさ。そのことで羽南の実力も際立った。AZMとのタイトル戦はなおのこと。上谷がAZMの猛攻に耐えれば耐えるだけ試合の熱が高まっていく。その上での勝利だからカタルシスも大きい。

 かつての上谷は自分の持ち味を“狂気性”だと言っていた。キレたら何をやらかすか分からない、危険な技を躊躇なく繰り出す選手。またヒールには好き放題に暴れ、相手を徹底的に叩き潰すというイメージもある。

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 だが今の上谷はそのどちらでもない。キャラクター、立ち位置としてはヒールでも、試合ぶりは堂々たるチャンピオンのそれだ。テレビで“ヒールらしからぬ”姿を見せる上谷は、リングでは“単なるヒールではない”闘いで観客を魅了する。

「ラヴィット!で沙弥様を見て女子プロレスを知った」

 スターダムの岡田太郎社長によると、今年の新人オーディションでは「『ラヴィット!』で沙弥様を見て女子プロレスを知りました」、「横浜アリーナ大会を見てレスラーになろうと思いました」という応募者も多いという。上谷は女子プロレスというジャンルの認識すら塗り替えているのかもしれない。

 ただ『鬼レンチャン』から『ラヴィット!』卒業回、そしてタイトルマッチへと続いた“上谷ウィーク”の影響が出てくるのは、むしろこれからだろう。というのも、9.27後楽園大会のチケットは早々に完売となっていたのだ。9.6横浜大会でAZMが上谷に9.27後楽園での対戦をアピールすると、客席がざわついた。「えぇっ?」という雰囲気。女子プロレスの顔になった上谷と、夏のリーグ戦準優勝、決勝トーナメントで上谷に勝ったAZMのタイトルマッチなのに、後楽園は狭すぎるというわけだ。

 その反応通り、後楽園大会は立ち見券も前売りでソールドアウト。『ラヴィット!』での試合が流れた時点でチケットは1枚もなかった。

 スターダムは急遽、大会のYouTube無料生配信を実施。視聴者の中には新規のファンも多かったのではないか。“上谷ウィーク”で広がったファン層が会場に行ったりPPVを購入するのは次回以降。ビッグマッチ、あるいは地方大会に新規ファンがなだれ込んで、スターダムの風景はより一層変化していくだろう。

【次ページ】 段違いの“世間へのアピール度”

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