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「棋力は誰にでもつく」「勝ちパターンを確立できた」なぜ“将棋の鬼”は藤井聡太に敗れ続けて強くなるのか「私はそこしか見ていないので」
text by

大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph byShintaro Okawa
posted2025/09/27 11:05
「棋力は誰でもつく」「勝ちパターンを確立できた」……努力の天才・永瀬拓矢が強くなろうとする根源的な理由とは
「私は研究会をやりすぎていたために、序盤力に関して足を引っ張られていたような気がするんです。一緒に勉強してそれなりに長い時間を共有しているのだからそうなるのは当たり前ですよね。最近まで対藤井戦で序盤でリードできなかったのはそういうことなのかなと。だから研究会を減らしたら、ちゃんと序盤でよくできるようになりました」
率直な言葉を聞けることへの喜びと、その内容の厳しさと強さの衝撃で、私は思わず黙ってしまった。その瞬間、「みんないい人ばかりなんですよね」と以前に永瀬がポツリと漏らしたのを思い出した。先ほど紹介した、研究会を減らそうかと悩んでいた時期に発した言葉だ。それについて言及すると、「そう、私が一緒に研究会をやりたい方の条件は、第1に人柄ですから」と続けた。
将棋の棋力は誰にでもつくと思っているので
そしてこうも話した。
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「将棋の棋力は誰にでもつくと思っているので。だから性格や人柄が一番大事なんです」
今回の取材で私が最も印象深かったのはこの言葉だ。
棋力は誰にでもつく? ある程度まではそうだろう。だがトップを目指す棋士はみなそこで悩んでいるのではないか。永瀬だって、藤井との差に絶望しそうになった瞬間もあるのではないか。でも永瀬は、絶対に自分が、そして誰もが強くなれると心の底から信じている。藤井に追いつけると確信している。だから尋常でない努力を続けられるのだ。
明日は対人の練習将棋はないということだが、一人で行う勉強はどうするのか。
「勉強は始めます。でも、明日はさすがにゆっくり起きるつもりです。睡眠時間はちゃんと取りますよ。そういえば藤井さんが、毎日7時間睡眠をとるって言ってたんですよ。メジャーリーガーの大谷翔平選手も睡眠の重要性についてお話しされているそうですけど、たっぷり寝て成功するのは藤井、大谷だけですから(笑)。勘違いする人がいると思うので、これ、ちゃんと書いておいてください。普通は寝る時間を削って、他の人が寝ている時間に努力を惜しまずに行動することで成功するんです。私の場合は年齢というか体質的に寝られないだけで、目が覚めちゃうというのが正しいんですけど」
藤井との「VS」はどうなるのか
取材時間が1時間20分になった。切り上げる時間だろう。その前に一つ大事なことを尋ねた。

