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スポーツ百珍BACK NUMBER
「国立かTBSか…」世界陸上“どっち観戦が正解”だった? 記者が痛感した地上波中継のありがたみ「競技後“ビールがぶ飲み選手”と対面」
text by

茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byKiichi Matsumoto
posted2025/09/27 17:05
村竹ラシッドらの激走によって、連日盛況だった東京世界陸上2025。会場の国立競技場で見たビックリ光景とは
「まあ、いいんじゃない? 競技は終わったし。人生、楽しむのが大事ですからね。明日からの観光もまたエキサイティングだといいなと思っています」
うーむ、世界陸上を媒介にインバウンドにも繋がっているとは。考えてみれば競技中にも洋楽のクラブミュージックや英語での進行案内が流れていた。各国アスリートの“素の表情”を含めて国立に居ながらにして海外旅行気分を味わえたのは、国際大会である世界陸上ならではだろう。
村竹ラシッドへの〈いや~、大好きだぜ〉
そして時は22時20分を少し過ぎ、今大会のクライマックスの1つである110mハードル決勝の瞬間を迎えた。5レーンに入った村竹がジョジョ立ちポーズを見せると、国立にはこの日一番の轟音が鳴り響いた。その直後、数秒の静寂ののち、号砲。13秒後に訪れた勝負の結果は、誰もが知っての通り。ゴールした瞬間はメダルにわずかに届かなかった悲しみの静寂に包まれたが、タイムが電光掲示板に表示されると村竹を労う拍手に包まれた。
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そこから数分。走り高跳びが実施されている中で、テレビ中継を同時配信していたTver(映像を見返せるので凄まじく便利だった)をつけると、村竹がインタビューで号泣している瞬間だった。隣で見ていたご婦人3人組も、自分のタブレットを見て目を潤ませていた。
〈これはラシッド君、ずっと応援しないと……〉
そしてインタビューを受けて、織田裕二の一言。
〈いや~……大好きだぜ〉
地上波の良質なスポーツ中継と現地観戦、どっちも…
国立での生観戦で総合すると――もちろん競技者のスピード、跳躍力、投擲のパワーが一番の衝撃だったが――それに対して、とんでもない知識量と熱量を携えて中継に臨み続けてきた織田裕二の偉大さを改めて実感した。そりゃ視聴者だけでなく陸上関係者から「織田さん辞めないで」のSNS発信が続出したわけである。
それは1997年大会から足掛け30年近くにもわたって世界陸上を中継し続けたTBSの積み重ねた蓄積があってこそなのだろう。走る・跳ぶ・投げるという人間の身体能力を突き詰めた陸上の競技性に最大限のリスペクトを持ちながら、エンタメ性も適度に味付けする。あらためて地上波での良質なスポーツ中継が、多くの人々にとって〈推しとなるための入り口〉であることを再確認した。
とはいえ現地観戦には現地観戦の良さがある。陸上競技のテレビに映らないシーン、聞こえない音が味わえたのは、本当に貴重な経験だったわけで、「生の国立かTBSで観戦か」の2択はどっちも正解だった、とも感じている。
世界陸上に限らず大規模な国際大会が国内で開催されることで、また多くの新規スポーツファンを呼び起こしてほしいな――と、外国人御一行が陽気に箸で麺をすするホープ軒の横を通りながら帰路についた。〈第1回からつづく〉


