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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「必ず倍返しが待っていた」最強挑戦者アフマダリエフは井上尚弥の“アウトボクシング”になぜ圧倒された? 元世界王者・飯田覚士が語る「いい意味で裏をかかれた」
text by

二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2025/09/18 11:09
最強の挑戦者アフマダリエフを12回判定で完封した井上尚弥。この試合のポイントを元世界王者・飯田覚士が徹底解説した
「尚弥選手のジャブをもらった瞬間、アフマダリエフ選手の足が(リングを踏むように)バタバタとなりました。対応が一つ遅れるとああなってしまう。要は、あのジャブが速くて見えていないから。威力も思った以上にあると感じたはずです。この時点で一歩リードしたと思いました」
ジャブで優位に立つファーストインパクトがありながらも、井上、アフマダリエフともに手数は少ない。お互いをお互いに牽制しながら、フェイントを駆使しながらの駆け引きが続く。慎重であるのは確かだとしても、その言葉だけでは十分ではない。
「手を出していないなかでも、しっかりとした攻防がありました。世界トップレベル同士だからこうなる。アフマダリエフ選手が何かやろうとする構えをすると、尚弥選手も迎え撃つ体勢を取るわけです。そうしようとするなら、こっちもこうするよ、と、そういったことの繰り返し。手を出してないけど、2人とも2手先、3手先が分かっちゃう。たとえて言うなら、剣の達人同士による決闘みたいなもの。剣を振らなくても、構えただけで実力が分かるという空間。尚弥選手もこの相手にもらったら危ないと察知したでしょうし、アフマダリエフ選手も想像以上だって分かったでしょうから」
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この1ラウンド、数こそ少ないとはいえ左ジャブ、右ボディーストレート、下がりながらの左フックなどを当てて王者はしっかりとジャッジに好印象を残してポイントを取り切っている。立ち上がりを見てもうまくいっていないのは、アフマダリエフのほうであった。
2ラウンドのハーフタイムをちょうど過ぎたあたりにアフマダリエフはプレスを掛けながら井上をコーナーに詰める。初めて自分が望んだ状況をつくり出しながらも、渾身の右フックは空を切った。
「ダッキングでひょいとかわして(コーナーを)抜けていきましたよね。打ち始めのときは(当たる位置に)頭があるのに、振ったらもう頭がそこにない。この場面ひとつ取っても尚弥選手のディフェンススピードがとてつもなく速い。アフマダリエフ選手からしたらやっとロープを背負わせて、自分のターンが来たと思ったのにこれですから。このままだとまずいなって感じたに違いありません」
井上尚弥の「太もも」に目が行った
打とうとしたそこにいない――。その圧倒的な瞬間スピードを生み出せるのはなぜか。飯田は井上の太ももに注目する。


