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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「イノウエをダウンさせるプランがある」敗者アフマダリエフ、作戦はなぜ失敗したのか? 取材記者がコーチに聞いた“誤算”「井上尚弥は“くる”」発言
text by

田中仰Aogu Tanaka
photograph byNaoki Fukuda
posted2025/09/17 06:04
9月14日、井上尚弥vsアフマダリエフ。敗者が思い描いていた“番狂わせ”プランとは…
ジョエル あるよ。カルデナス戦で多くを学んだからね。そう、あの試合で学べたんだ。カルデナスはタフなファイターだが、あのレベルを相手に戦うには経験が足りなかった。イノウエのスピードと手数に圧倒されたんだよ。
――井上のパワーでダメージを受けたわけではない。
ジョエル そうだね。イノウエはとにかくパンチの数が多い。カルデナスは一撃で倒すことに意識が向きすぎていたし、試合中にアジャストする経験が足りていなかった。だが、MJは違う。オリンピックにも出て、アマチュアで国際戦を300戦以上こなしてきた。技術、フットワーク、判断力、パワー……どれもラモンより上だ。
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――井上のパンチはMJに効くか?
ジョエル 効く可能性はある。イノウエの右は脅威だ。それも見えていないタイミングで打ってくる。それがノックアウトのカギなんだよ。ダウンさせるパンチは“見えないパンチ”であって、単なる“強いパンチ”ではない。MJにも同じことが言える。
「イノウエをダウンさせる」プラン
――左フックが井上をダウンさせるカギとされているが。
ジョエル MJは両手どちらも強烈だよ。パンチが入る角度次第。加えて、ラモンは一点に留まってしまうことがあったが、MJは一つの場所に留まらない。常に動きながら相手のパンチを空振りさせて、カウンターを放てる。
――ということは、井上は攻めてくると考えているのか。
ジョエル 攻めてくるか、安全運転でくるか。ホームで戦うわけだから、おそらくイノウエは自分の力をわかりやすく示したいと思うはずだ。その点、MJを捕らえるべく、イノウエは積極的にくると見ている。もちろん、その夜のイノウエの戦略次第だけどね。
試合映像で見たジョエルは、いかにも豪傑といった風体で、激しい言葉で所属選手を叱咤していた。だが実際に話しかけると、理知的で冷静な戦略家であることがすぐにわかった。つまり、ジョエルの言葉は虚勢でもトラッシュトークでもなかった。なぜなら他の質問の回答でこんな言葉も残していたからだ。
「善戦とはいえ、カルデナスはイノウエに完全に支配されていた」
「イノウエは強く、それでいて恐ろしいまでに賢明なボクサーだ」
「(カルデナスの)TKOを止めるのが早かったとは思わない。レフリーの妥当な判断だった」
アフマダリエフの“誤算”
しかし試合が終わった今、あらためて聞き返すとジョエルが唯一繰り返した言葉が致命的な欠陥を孕んでいたことがわかる。


