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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「イノウエのパワーは想定以上ではなかった」敗者アフマダリエフ“2つの誤算”…取材記者が本人を直撃、コーチは“言い訳”「井上尚弥のプランは…予想外だった」
posted2025/09/17 06:05
9月14日、井上尚弥vsアフマダリエフ。敗者が思い描いていた“番狂わせ”プランとは…
text by

田中仰Aogu Tanaka
photograph by
Naoki Fukuda
◆◆◆
「想定していなかった」コーチが明かす“2つの誤算”
「ノーコメントとさせてほしい」。アフマダリエフの戦いぶりについて、そう回答した会見から3時間後。私はアフマダリエフ陣営が宿泊するホテルにいた。ディアス兄弟と旧知の記者が引き合わせてくれたのだ。
アポイントメントこそ取れていたが、ジョエルはついに現れなかった。「時差ボケ? 大丈夫だよ。日本に到着してよく寝られたから」。試合2日前に話したとき、ジョエルはそう豪語していた。だが疲労が溜まっていたのか。はたまた取材を受けたくなかったのか。
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すると奇跡的にアントニオが目の前を通りかかった。敗れた直後である。失望も疲労も容易に想像できた。「2つだけ教えてください」。そう断るとアントニオは「OK」と言い、歩みを止めてくれた。その声は終始か細く、表情も硬直していた。陣営の誤算。彼はこう断言した。
「イノウエは我々のプランとはまるで異なるボクシングできた。想定していなかった。そしてそのボクシング(アウトボクシング)がとてつもなく上手かった。イノウエにスピードがあり、ステップが優れていることだって知っていた。だが……」
そうなのだ。誤算はもう一つあった。アフマダリエフ陣営“の中で”生じていた困惑だ。
「MJには試合中も伝えていた。手を出さないとダメだ、カウンターを狙え、と。彼はうまくブロック(ガード)できていた。ディフェンスの動きもよかった。ただカウンターを放てなかった。特にMJが押して、イノウエに押し返されたとき。あそこがカウンターのチャンスだった。MJがイノウエのスピードとステップに驚いていたからなのか。まだ本人とじっくり話せてないからわからない。MJに何が起こっていたのか、じっくり見直す必要がある」
これ以上、今のアントニオに尋ねるのは気が引けた。質問を終える挨拶をしたとき、僅かではあるが、初めて笑みを浮かべた。それは敗戦を振り返る苦しみから解放された安堵と言い換えてもよかった。
アフマダリエフを直撃「イノウエは想定以上ではなかった」
兄のジョエルが現れないことはわかっていた。それでもホテルで待っていた理由はもう一つあった。アントニオの話を聞く1時間ほど前に、アフマダリエフ本人が関係者とともに外出するシーンを目撃していたからだ。となれば彼はホテルへ帰ってくるはずだ。


