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「巨人を蹴って阪神を逆指名!」マスコミは熱狂…暗黒期のドラ1投手が明かす「タイガースを選んだ本当の理由」 悩んだ過熱報道とフォーム矯正
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佐藤春佳Haruka Sato
photograph byNumberWeb
posted2025/08/30 11:00
現在はロキテクノ富山の監督を務める藤田太陽氏
「父親をはじめ、家族は全員巨人ファンでした。だから本心では巨人に行って欲しかったのだと思いますが、僕の決断なので何も言いませんでした。阪神に決めた一番の理由は、当時の担当スカウトだった佐野(仙好)さんの存在でした。ずっと変わらず、熱意を伝え続けてくださった。それに、僕の高校は弱かったので、当時の仲間の夢を背負って目指していた甲子園で投げたい、という思いもありました」
もう一つ、現実的な理由もあった。藤田さんは社会人時代から、右肘に違和感を抱えていた。両球団ともそれを承知のうえで獲得に動いていたのだが、プロ入り後に歩む道を冷静に考えた時、阪神の方が余裕を持ってキャリアを積めるのではないか、という判断があった。
「当時の巨人は常勝チームで、誰もが知っているエースが6枚並んでいるような先発ローテーションでした。入って手術でもしたらすぐに戦力外、という道が見えていたというか……当時の阪神ならローテーションに入るチャンスもあるし、肘に関しても長い目で見てくれるだろうという判断がありました」
「巨人を蹴って阪神を逆指名!」マスコミも熱狂
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この決断には、秋田で育った20歳の右腕の予想を超える反響が待っていた。当時の阪神は8年連続Bクラスという暗黒期の真っ只中。「巨人を蹴って阪神を逆指名!」。あの常勝・巨人の誘いを断って、阪神を選ぶという浪花節のストーリーを、関西のマスコミは熱狂を持って迎えた。
「いきなり世界が変わった、という感じでした。新人の自分に、新聞とテレビの記者が7人くらい付いているんです。毎日、一挙手一投足について何か聞かれるという感じで……」
在阪スポーツ紙が連日1面で取り上げたのはもちろんのこと、1月の新人合同自主トレや2月のキャンプイン早々から、在阪テレビでも特集を組むなど大フィーバーが待っていた。しかも当時の監督は故・野村克也氏。キャッチボールをすれば「野村監督が大絶賛」、ブルペンに入れば、「早くも新エースに指名!」。と思えば一転、「ノムさんがドラ1右腕にダメ出し」……連日、指揮官の一言一言が紙面の見出しになった。

