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創部70年目のチームスピリット 《日本通運スペシャル対談》辻発彦×澤村幸明「都市対抗は皆がひとつになる貴重な機会」

posted2025/08/28 10:03

 
創部70年目のチームスピリット 《日本通運スペシャル対談》辻発彦×澤村幸明「都市対抗は皆がひとつになる貴重な機会」<Number Web> photograph by Shiro Miyake

(左)辻氏は1977年に日本通運に入社し、プロ入り後は西武などで活躍(右)澤村監督は2003年に日本通運入社後、長く選手として活躍し2020年に監督に就任した

text by

熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

PROFILE

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Shiro Miyake

11年連続50回目の都市対抗野球出場を果たす日本通運のレジェンド辻発彦と1964年以来の黒獅子旗獲得を目指す澤村幸明監督が、創部70年目にして不変の伝統を語り合った。

 都市対抗出場、おめでとうございます。澤村監督は今回で何度目ですか?

澤村 選手時代は13回で、監督としては6回目になります。

 合わせて20回近くとはすごいね。都市対抗出場が決まると、周りから『次こそ2度目の優勝を』とか『前回以上の成績を』といった期待の声が届くと思うけど、監督としては正直ホッとした?

澤村 そうなんです。私たちは会社を代表して野球をやっているので、社会人の最高峰である都市対抗には出なきゃいけない。予選で負けるわけにはいかないですから。

 ぼくも日本通運時代、都市対抗には7回出たので予選のプレッシャーの厳しさはよくわかる。入社したてのころ、試合当日の朝に先輩たちが緊張のあまりむせていました。予選をすんなり勝ち上がれず徐々に追い込まれていく、あの重圧は経験者じゃないとわからないよね。

澤村 いまの野球部はオフシーズンを除けば野球に専念させてもらっていますが、辻さんの時代はいかがでしたか?

 午前中は職場に出て仕事をしていました。基本的には雑用係で、荷物や伝票の整理と電話対応くらいですが、クレームの電話はどう対応していいのかわからないので先輩に代わってもらっていましたね。昼前に仕事を上がって練習場に行くと、いつも練習用具をリヤカーに乗せてグラウンドに運んでいました。小さな橋を越えるのがきつくてね。あの社会人時代があったから、その後のキャリアがある。間違いなくそう言えます。

澤村 あの辻さんが、入社当時は打球が前に飛ばなかったと聞きましたが。

 それ、本当なんです。ぼくは佐賀の高校を出て、たまたまご縁があってテスト生で入れてもらいましたが、フリーバッティングで打球がケージから外に出ない。全然飛ばなかったんですよ。

澤村 そこからプロに進むことができたのは、何かきっかけがあったんですか?

 ぼくはもともとサードですが、補強選手がサードしかできないということで、都市対抗で一度だけセカンドを守ったんです。その試合で難しいゴロを素早く処理したら、たまたま見に来ていた西武のスカウトに『辻はセカンドもできる』と評価していただいた。だからプロになれたのは都市対抗のおかげ。奇跡みたいなものなんです。

エリート不在の「叩き上げ集団」というプライド

澤村 見ている人は見ているんですね。ところで辻さんから見て日本通運の伝統、チームカラーといえるものはありますか?

 いろんな大学、高校から選手が集まっていましたが、先輩たちが口をそろえて言っていたのは、エリートのいない叩き上げ集団だということ。ぼくのような選手がテスト生として入れたことも含めて。

澤村 それはよくわかります。

 そんなチームの一員として都市対抗を戦う中で、自己犠牲の精神を叩き込まれました。常勝西武がなぜ強かったのか、いまでも聞かれることがありますが、それはひと言でいえば自己犠牲の精神があったからです。社会人でフォア・ザ・チームの精神を叩き込まれた石毛(宏典)さんやぼくのような選手が“どうせアウトになるなら(走者を)進めて”、そんなアマチュアイズムを体現していたのが大きかったと思います。

澤村 そういう姿勢はいまのチームも意識していて、勝つために何をすべきか選手が自発的に話し合う場面が増えてきました。ヒットを打たなくても内野ゴロやゲッツー崩れで点を取ることができる。予選ではそれほど点を取れなかったですが、いい点の取り方ができるようになってきました。

 日本通運は伝統的にいいピッチャーが多いですが、都市対抗でもやはり軸になるのはピッチャー陣ですか?

澤村 都市対抗は接戦になることが多いので、ひとつのエラーや四球が勝敗に直結します。ですからバッテリーを中心に守りでリズムを作りながら攻撃につなげていく、そんな試合運びをしたいですね。

 キーマンを挙げるとしたら?

澤村 ピッチャーならベテランの相馬(和磨)と2年目の冨士(隼斗)。どちらも予選で完封してくれました。このふたりをリードするのが若手の山本(空)。小柄で俊足の若いキャッチャーです。彼らバッテリーが試合をつくっていけるか、そこがポイントになると思っています。

 都市対抗といえば応援が名物ですが、会社がひとつになっての応援はほんとうにすごい。実はぼくの妻はかつて日本通運に勤めていて、彼女が応援に来た試合でたまたまぼくがホームランを打ったので憶えていてくれたんです。当時は屋上で真っ黒に日焼けしながら応援の練習をしていたみたいですが、いまはどんな感じですか?

澤村 私が現役だったころに比べて応援に来てくださる方は増えています。毎年若手の従業員で構成していた応援団も、一昨年、応援部となりました。

 それはすごい。日本通運は都市対抗に長く出場してきた歴史があるので、OBの人たちも東京ドームに集まる。都市対抗はそうした再会の場でもありますよね。

澤村 はい。それに全国にいる現役社員のみなさんもドームに足を運んで応援してくださる。都市対抗は皆さんがひとつになる貴重な機会でもあるので、ひとつでも多く勝って交流の場をつくりたいです。

 最後に今年の目標を教えてください。

澤村 2年連続でベスト8まで来ているので、まずはベスト8へ。その中で優勝もしっかりと見据えて戦います。

 都市対抗はやはり祭典。選手たちには大舞台を存分に楽しんでほしい。一人ひとりの声援が間違いなくチームの力になるので、スタンドで一緒に応援しましょう。

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