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野球クロスロードBACK NUMBER
監督の表情はこわばり、ブラバンの姿はなく…甲子園“暴力事案”で揺れる広陵高 現地記者が感じたリアルは? 監督は「粛々と全力を尽くすだけなんで」
text by

田口元義Genki Taguchi
photograph bySankei Shimbun
posted2025/08/08 17:01
1回戦で旭川志峯に3-1で勝利した広島の広陵を率いる中井哲之監督。試合前の取材対応では強張った表情を見せていたが…
もし、違和感があったとすれば、19時29分に試合が始まってからだ。広陵が陣取る三塁側アルプススタンドに本来いるはずのブラスバンドとチアリーダーがおらず、控え選手たちの声と太鼓、手拍子で応援していたのである。
これも「自粛」と勘繰られそうだが、部長の中井惇一によると、ブラスバンドは他の大会と重なり、チアリーダーは試合後だと帰宅できなくなる可能性がある。つまり、試合開始が遅いことを考慮しての措置だったという。
試合は、息詰まる接戦の末に広陵が勝利した。
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春夏通算53回目の出場を誇る、伝統の校歌が甲子園で奏でられる。
「かえれ~」
客席からの若者の茶化しも、勝者を称えるスタンドの拍手に虚しくかき消される。冷ややかな意見で溢れかえっているSNSとの温度差を感じられるほど、甲子園はやはり勝者に温かかった。
試合後は「粛々と全力を尽くすだけなんで」
初陣を飾れた喜びと安堵が、中井の心を穏やかにさせる。試合後にも不祥事についてのコメントを求められ、「学校が発表した通りなんで。粛々と全力を尽くすだけなんで」と、試合前と同じように答えた。ただ、その時とは明らかに表情が違っていた。
全力で――。それは、いついかなる時でも広陵が誓う、金科玉条のような精神だ。キャプテンの空輝星に「答えられる範囲で」と前置きし、動揺などチームの率直な気持ちを尋ねる。
「いや、特になかったです」
そう言って空は、真っすぐに目を向ける。選手たちを代表しての言葉には、監督の意志が宿っているようだった。
「自分たち自身も『やってきたことを出そう』と、しっかり野球に集中して臨みました」
広陵は甲子園のグラウンドに立った。そして、しっかりと全力を出して戦った。試合があった日には、SNS上で新たな事案が浮上したことを受け、被害生徒の保護者の意向により広陵高校が第三者委員会を設置。現在、調査中であることが明らかとなった。日本高野連は同校からの報告を待ち、対応を検討するとしている。
騒動は、いまだ落ち着く気配はない。
だとしても、広陵は全力を出し、甲子園を戦う。きっと、それが今、彼らが世間に示せる最大限の答えなのである。

