ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
“悲劇のドロー”で引退表明「いろいろあったけど…」比嘉大吾が言葉に詰まった“ある質問”「40秒ほど考え込んで…」戦友・堤聖也も涙した会見ウラ側
text by

渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2025/07/31 12:12
アントニオ・バルガスに挑んだ比嘉大吾は最終回にダウンを奪われ惜しくもドロー。3戦連続世界挑戦も王座獲得はならず、試合後に引退を表明した
迎えた最終回、比嘉は懸命に前に出たが、バルガスも譲らない。そして終盤、バルガスが右アッパー、左フックを合わせると比嘉がダウン。立ち上がってピンチをしのぎ終了のゴングを聞いたものの、読み上げられたスコアは3者ともに113-113のドロー。結果的に最終回のダウンが運命を変えた。比嘉は「同じ過ちをしたという感じです」と堤からダウンを奪った直後にダウンを奪い返された5カ月前の試合と今回の姿を重ねた。
比嘉大吾が言葉に詰まり…戦友・堤聖也も涙
試合後、プレスルームでメディアの質問に淡々と答えていた比嘉が言葉に詰まり、40秒ほど考え込んで涙をぬぐうシーンがあった。故郷、沖縄の新聞記者が「沖縄の人たちに伝えたいことは?」と質問したときだった。
「ああ、うれしいですね。ここまでいろいろあったけど、ここまで応援してくれる人がいたのがデカいです。感謝しています」
ADVERTISEMENT
ようやく言葉を絞り出した比嘉はどんなときでも自分を見捨てなかった野木トレーナー、志成ジムの面々、ファン、あらゆる関係者に感謝の意を表し、こう続けた。
「いつもお金のためにやっていると言っていたけど、それもあるけどお金だけのためではないので……。ほんとみんなのおかげで、ほんとに楽しいボクシング人生でしたね」
会見場の片隅ではプライベートでも仲のいい同年の堤が比嘉のインタビューを見守っていた。会見を終えた比嘉が「頑張って」と声をかけると、堤はあふれ出るものを抑えることができなかった。
2014年のプロデビューから抜群の身体能力とチャンスと見れば狂ったように襲い掛かる野性的なボクシングでファンを魅了した。計量失格で大きな心の傷を負いながら、その後も明るく、とぼけたスタイルを崩さず、いつも周囲を明るくした。ボクシングも何が何でも倒しにいくファイター型から脱却し、駆け引きや技術を駆使するスタイルにシフトしてみせた。
沖縄県立宮古工業高校を卒業し、上京してから11年あまりが経った。だれからも愛されたボクサーはリングを降りる。ファンからの温かく、惜しみない拍手を背に受けて。


