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“悲劇のドロー”で引退表明「いろいろあったけど…」比嘉大吾が言葉に詰まった“ある質問”「40秒ほど考え込んで…」戦友・堤聖也も涙した会見ウラ側
posted2025/07/31 12:12
アントニオ・バルガスに挑んだ比嘉大吾は最終回にダウンを奪われ惜しくもドロー。3戦連続世界挑戦も王座獲得はならず、試合後に引退を表明した
text by

渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Finito Yamaguchi
横浜BUNTAIで7月30日、トリプル世界タイトルマッチが行われ、セミのWBAバンタム級タイトルマッチは、挑戦者2位の比嘉大吾(志成)が正規王者アントニオ・バルガス(米)とドロー。前回の堤聖也(角海老宝石)戦に続いて引き分けに終わった比嘉は引退を表明した。
3度目の正直ならず断言「引退します」
昨年9月にWBO王者の武居由樹(大橋)に小差判定負け、今年2月にWBA王者の堤(現休養王者)に挑戦してドロー。異例となる3試合連続の世界タイトルマッチで結果を出せなかった比嘉は試合後の記者会見できっぱりとこう言った。
「自分の中では負けと一緒。チームがいて、プロモーターがいて3戦目を作ってもらって、それを生かせないのだから自分はもう引退します」
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デビュー以来、苦楽をともにしてきた野木丈司トレーナーは「大吾を尊重したいと思います」と何かを悟ったようにうなずいた。
無敗のまま2017年にWBCフライ級王者となり、2度目の防衛を成功させ15連続KO勝利の日本タイ記録を打ち立てた。3度目の防衛戦で日本人選手初の世界戦計量失格という失態を演じ、人生のどん底を味わった。その後は2年のブランクをへてバンタム級で復帰したものの、かつての情熱を取り戻すことは難しかった。
そうした中で訪れた武居への挑戦というチャンスで比嘉は心を入れ直した。同じく堤戦でも野木トレーナーが与えるハードトレーニングをしっかりこなしたが、残念ながらベルトを手にすることはできなかった。この2戦を終えて、野木トレーナーは次のように考えた。
「タイトルを手にできなかったのはやっぱり心の部分なんです。僕にやらされて練習しているようではダメ。堤戦が終わったあと、大吾から『お願いします』と言ってこなければ、試合のオファーがあっても私から大吾に声をかけるつもりはありませんでした」
比嘉も野木トレーナーの思いを分かっていた。だから今回は自分から頭を下げた。比嘉は言った。「過去2戦はやり切ったらいいという気持ちがあったけど、今回は何が何でも勝ちたい」。バルガスへの挑戦は覚悟を決めて臨んだ試合だった。

