ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
“悲劇のドロー”で引退表明「いろいろあったけど…」比嘉大吾が言葉に詰まった“ある質問”「40秒ほど考え込んで…」戦友・堤聖也も涙した会見ウラ側
text by

渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2025/07/31 12:12
アントニオ・バルガスに挑んだ比嘉大吾は最終回にダウンを奪われ惜しくもドロー。3戦連続世界挑戦も王座獲得はならず、試合後に引退を表明した
「ポイントを取らないと」ダウンを奪うも確信はなく…
試合は序盤から息詰まるようなペース争いが繰り広げられた。打たれ弱いバルガスはがっちりとガードを固めてジワジワとプレスをかけ、コンパクトでスピーディーなパンチをまとめるスタイルだ。一方の比嘉はフットワークを使いながら得意のジャブを軸に試合のペースを引き寄せようとした。
バルガスはハンドスピードが速く、比嘉はこれをブロッキングで防いでいるもののバルガスの優勢と見えなくもない。比嘉は試合運びで1枚上という印象を与えながら、見る者によって見方が分かれるような展開だ。実際に比嘉陣営は手ごたえを得ることができずにいた。
「自分もガードを上げていたけど、相手は関係なくプレスをかけてきて、返しのパンチが少なかった」(比嘉)
ADVERTISEMENT
「大吾はもらってはいなくても下がるシーンがあって、ポイント的に良くないなと思っていた」(野木トレーナー)
野木トレーナーによると、比嘉は3回を終えたインターバルで足がつったと明かした。簡単にマッサージをして送り出したが、プロ27戦目にして初めて経験する異変だった。
3ジャッジのスコアがなかなかそろわない展開の中、比嘉は4回に左フックでダウンを奪う。やはり比嘉は生粋のパンチャーだ。そして5、6回はジャブの精度が上がり、上下の打ち分けにもリズムが出て、ここからバルガスを引き離しにかかるかに見えた。
ところがいい流れは長くは続かなかい。王者のプレッシャーが強まり、挑戦者は戦略を変えざるを得なくなる。後半に入ると距離を詰めて戦うスタイルを選択した。比嘉の説明はこうだ。
「挑戦者なのでジャブだけではダメじゃないかと。プレッシャーが強いので、攻めて打ち合ってポイントを取らないといけないと思った。セコンドからの指示もあったので」
こうして比嘉は打ち合いに出たが、打撃戦はバルガスの土俵でもある。手数でバルガスが比嘉を上回り、もどかしい展開が続く。「いい意味でも悪い意味でも相手を見てしまうところがあった。自分から行く姿勢が足りなかった」とは比嘉。野木トレーナーは11回が始まる前、「あと2ラウンド、絶対に取って来い」と愛弟子を送り出した。

